↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

通学、ラベンダー畑にて

この町では、ちょっとした名物がある。

元々都心部の中でもあんまり人口も観光客も少ない場所だが、多少なりとも活気づいているのはこれのおかげだろう。


最近ではスーツ姿や、なかには白衣を着たまま歩いている人なんかまで普通に外に出れば遭遇するようになってきた。

まあ…研究のためなんだろうが。


実際、毎日学校に通う度に嫌でも目に入る俺たちにとって、別段珍しさも有り難みも感じないのが本音だが、そっちの道の方々には目の保養になるんだろう。


この、通学路を覆うように満遍なく敷き詰められた真っ赤なラベンダー畑は。

いや、正確には、マゼンタだったかな?

どっちみちこれだけどっかの高原かとでも言いたくなるぐらい密集している様子を見れば、ピンクだろうがマゼンタだろうがもはや「赤」だけど。


「お花さんの香りだねえ」


うーん、と香りを全身で感じ取らんとしてるのか、背伸びしながら大きく深呼吸。

瑞希の恒例行事のようなものだ。

通学路の中でも特にこの道はお気に入りらしい。


「……」


…実を言うと、俺はこの強い花の匂いが苦手だ。

ラベンダーの香りも別段嫌いなわけではない。

しかし、これだけの量の花に囲まれると、自己主張が強すぎてなんというか’強烈’なのだ。

こればかりは実際にお花畑に行ってみないとわからない感覚かもしれない。


ただ、以前この道で瑞希が香りを満喫している際につい、思ったことが口に出てしまった。

内容は大したことではなかった気がする。

ラベンダーってトイレのイメージだな、とかそんなん。

悪気はなかったのだ。


「ラベンダーって言えば、トイレの芳香剤だよな。

人間の体臭に対抗するために作られたんじゃないか?実は」


ピタと止まる瑞希。


「なんかラベンダー味のアイスなんてのもあった気がするなぁ

なんだって葉っぱ食うんだ。口臭予防か?」


この時の俺はバカだった。

空気を読むという行為をしなかったんだ。

なんかそのほうがかっこいいと思って。


「…謝って」


「ん?」


「お化粧品とか女の子に人気だったりするんだよ!

トイレなんて言う楓がトイレだよ!」


…うん。

今思い出しても大変だった。

一日ご機嫌斜めだったし。

というか最終的には俺がトイレになってた。


まあ、次の日にはいつも元のテンションに戻ってるのがこいつのすごいとこだけど。


そういうことがあってから、花に限ったことではないがこいつが何かしらご満悦の時には

なるべく口出ししないようにしている。

何が逆鱗に触れるかわからないし、なによりポカした時が面倒くさい。


なにはともあれ、ここの土地なのか気候なのかよくわからないが、とにかくマゼンタの

ラベンダーが珍百景である…んだけど。

元々はここのラベンダーは普通の紫色だったらしい。

それもそんなに前の話ではなく、大体1年前ぐらいの話。

ちなみに俺は生まれも育ちもこの町だ。


そう…つまり、覚えていない。

俺の記憶ではここを通るときはいつも真っ赤なラベンダーが見えていたし、研究者らしき人は

日によって違うが、大体この辺をうろついていた。


そのことをこの二人に話したことはあるが、はぐらかされたことがある。

スッキリしないが、客観的に見ればどう考えても俺が覚えてないだけだ。

だから気にしないようにしてる。


だからきっと気のせいだろう。

この道で黙っていると、二人から視線を感じるのはーーー。


この道は、この花は、なにか…。


「あ、電車」


葵の声にはっとする。

気づくともう駅の目の前だった。

そして遠くから駅に向かって走ってくる電車が見えた。


「間に合ったね!よかった〜」


「そうだな。これで安泰だ」


今朝は家を出るのが少し遅かったのもあって正直学校までフルマラソンもあり得るかと思っていた。

そうなると学校までひたすらラベンダー一色。

名物ついでに通学路になっている。


「うん!今朝はちょっと食べ過ぎたから走るのはきついよ」


俺としても、この匂いが充満した道を10分以上走るのは遠慮したい。

それに…


「それにーーー。

なんか、調子悪そうだもんね?」


「ッ!?」


急に顔を覗かれてびっくりした。

なんだか、思考も覗かれた気がして。


「い、いや。そんなことないぞ?」


そう?とにこやかに返す瑞希。

改札機を通り、着いたばかりの電車に乗り込む。

この時間帯はいつもサラリーマンと学生たちでにぎやかだ。


何かよくわからないけど、ラベンダー畑を通ると不安になる。

何に対してかはよくわからない。


「ま、気のせいか」


「兄さん?どうかしました?」


すっかりよそ行きモードになっている葵。

本人曰くもはや外に出ると無意識でスイッチが切り替わるんだと。


「なんでもないよ」


自分の胸ほどの位置にある頭に手を置く。

妹に心配されてたら世話ないな。

自分でもよくわらかないけど、とにかく気にしないようにしよう。


電車の中で身動きが取れないからかどうかわからないが

手を置かれた妹はいつもより大人しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。