予感、悪性にて
「あれ、閉まってる?」
とうに葵は帰ってきてると思ったんだが。
今日は遅くなるのかね。
一人自宅に入り、キッチンでビニール袋を下ろす。
帰り道、なんとなく理由が欲しくて買い物した。
瑞希はついてこなかった。
そのほうが楽ではあったが、いつもなら一緒にスーパーに寄るだろうなと考えるとちょっと複雑な気持ちになる。
今日は葵が夕飯当番になってるけども。
遅くなるんじゃ俺が用意しておいたほうが良さそうだ。
買い置きしておいた食材で簡単に一品だけ作ることにする。
ーーー。
「…遅い」
垂れ流していたバラエティ番組の音がうるさくなりテレビを消す。
とは言え遅いのは仕方ない。
文化祭の準備で大変なんだろう。
それより気にかかっているのは瑞希のほうだ。
何かと変な夢を見たせいでぎくしゃくしてしまった。
勝手な思い違いで嫌な思いをさせてしまったかもしれない。
よし。
適当な上着を羽織、瑞希の家の前まで向かう。
チャイムを押すも、反応がない。
…いないのだろうか。
電話をしてみる。
…こっちも反応なし。
留守園に切り替わる。
もしかしたら寝てるのかもしれない。
わけわからん時間に寝たりするし、あいつ。
寝起きの悪さを想像して笑みが溢れる。
帰って風呂入って寝る準備でもするかな。
玄関の前に着いた時だった。
葵からSNS。
なんだ珍しい。
あまり文章でのやりとりはしないのに。
画面を操作し未開封となっている部分をタップ。
件名も内容もなし。
URLがついてるだけだった。
なんだ?
わけがわからずURLをタップする。
ネットに接続され、多少の読み込み時間の後、ページが開く。
地図のようだった。
天宮町の地図。
よく見るとピン留めされている場所がある。
ここからそう遠くない。
20分かからないぐらいだろうか。
葵に電話してみる。
…留守電。
何かおかしい。
今届いたってことはスマホを触れるんじゃないだろうか。
ピンの位置からも電車の中ってわけでも無さそうだ。
段々と悪い方向へ思考が巡っていく。
助けを求めているんじゃないのか。
深く考えるのもそこそこに、俺は走りだしていた。
ーーー。
空間の裂け目があった。
強いベクトルの乱立により突如として出現する入り口と出口のある不確定要素の多い4次元的なトンネル。
多くのことはわかっていない。
ただ、いくつか検証されていることがある。
それは人間が通り抜けることができることと、普通の人間が通り抜けられないことだ。
また、ベクトルの力が強く働いている時に触れてしまうと無限の渦によって原型を留めていられなくなるとか。
要、検証。矛盾点アリ。
このトンネルのことは、誰が呼んだか特異点と呼称されている。
この特異点近くでは怪奇現象が起こると言われている。
出現した先で奇妙な生物が目撃されるのだ。
その生物については強い光か、光の物質の何かが苦手なのか夜間にしか行動していない。
検閲。検閲。検証データ不足。
さて、その生物というのがズバリ、この未知なるトンネルを抜けてきた者達だ。
その背格好から、元は人間ではないかと考えられている。
普通の人間が通るとそのようになるようだ。
では、普通じゃない人間は?
既に実証されていることだが、とある国家のとある研究機関ではこのトンネルに人間を通し、そのまま存命できることが証明されている。
もちろん、奇妙な生物に変態することはない。
ただしおよそ人間の摂取量とは思えない薬品を投与された、およそ人間とは思えない細胞で構成された者達だが。
ではでは、そのとある国家とは?
その結論を述べる前に特異点の性質について。
このトンネルは発生する座標は完全にランダム。
稀に上空に発生し巻き込んだ鳥がミンチになって降ってくる、なんてこともあった。
しかし、発生してしまえばトンネルを通り辿り着く出口というのは決まっている。
同一座標だ。
そしてこの検証がなされたのは主に日本。
つまり。
とある国家とは日本のことである。
どういうことか?
国はそんな機密情報を隠していたのか?
いや、違う。
特異点問題には直面しているが、残念ながら”この日本”はこの答えにたどり着いていない。
ここから述べる内容は全て事実だ。
実際に検証もなされている。
特異点Aを通る被験体はトンネルを抜けた出口でも同じ場所にいた。
出口は特異点Bとす。
ただ、そこは文明レベルが低い日本だった。
過去なのか。或いは未来なのか、はっきりわからない。
ただ、おそらく別の道を歩んだ日本なのだ。
今の世界というのは無数の選択肢の選択により算出された、言わばコンピュータの演算結果の一つのようなものだ。
特異点はその演算結果を狂わせる何かを持っているのかもしれない。
そして、もう一つ。
このお互いの似通った世界には、特異点という未知の現象で干渉できるように
片方の世界での現象は、もう片方の世界に何かしらの影響を及ぼすと考えられている。
当研究所ではこの相互干渉の特性を利用し、今の日本をより良いものへと変えていく義務があるものと考える。
未検証。データ不足。
そして実はもう一つ。
イレギュラーなことだが、この特異点のような性質を持つ人間がいることがわかった。
彼らは演算結果を事前に知ることでもできるのか、特異点B、即ち”向こう側”での出来事を予見していた。
それは考えるというよりも視覚的に視えるという。
興味深い研究対象である。
もしこの特性を応用できれば、日本は核兵器を凌駕する脅威を保持したも同然と言えるだろう。
総理もさぞお喜びになられること間違いない。
検証。検閲。実験。観察。測定。
この世界を見渡すような眼の実験を世界視測定計画と呼称し、最優先項目として推し進めていくものとする。
実験対象については現段階では2名。
司 楓
司 葵
ただちに研究に協力願うものとする。




