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焦燥、致命的に

「瑞希!」


跳ね起きる。

その衝撃で即席の椅子ベッドは崩れてしまった。

床に投げ出される楓。


「いつつ…」


「大丈夫か?」


何事かと。

目を剥いて尋ねる。

それだけ唐突だった。


「あれ。あ、ああ。」


夢だ。夢だった。

また瑞希がいた。

なんなんだ。


「やっぱ、疲れてんじゃないか?今日はもう帰れよ」


心からの言葉だった。

周りもそれに同調している。


こうなってしまっては、帰らないとむしろ邪魔だろう。


「ああ…悪いな」


「気にすんな」


荷物を掴み、教室を後にする。

みんなからは気遣ってもらい返されたが、どうしても確認したいことがあった。


いつもとは違う駅で降りる。

さっき夢で見た場所へ。

駅から数分程度。そんなに遠くない。


しばらく歩くと2手に分かれる道まで来たが、酔っぱらいの若者達はいなかった。

裏のほうの路地に進む。


突き当りを左へ。

迷いなく進む。


そして、夢で見た路地。

そこには…


行き止まりの浅い路地があるだけだった。


何もない。

やはり、ただの夢なのか。

たまたまだ。

たまたま、リアルな夢を見ただけ。


そう自分に言い聞かせる。

また明日も準備があるし、もう帰ろー。


「何してるの?」


来た道を戻ろうと振り返った瞬間に話しかけられた。

声も出ないとはこの事か…と妙に納得した…じゃなくて、


「瑞希、か。びっくりさせんなよ」


「びっくりはこっちだよー。買い物に来たらなんか変なとこにいくんだもん、楓」


きょとんとしていた。

こっちはついさっきここに瑞希がいる夢を見たばかりだっていうのにー。


待てよ。

さっき夢のなかでこいつはカバンから見慣れない機械を出していた。

今持ってるカバンからそれが出てくれば、夢じゃない…?


「あ、あのさ、瑞希」


「うん?」


「カバン…の」


なぜかうまく喋れない。

何が怖いってんだ、俺は。

夢に決まってるじゃないか。


そうだ。俺が誤解してしまうより今はっきり言えばいいんだ。


「カバンが、なんだって?」


瑞希は、怖いくらい笑顔だった。

ただ、目は笑っていなかった。


「い、いや…なんでも」


言えなかった。

様子が変だったというのもある。

気のせいかもしれないが…。


その日はそのまま帰ったが、帰り道は終始互いに無言だった。


ーーー。


最近、楓の様子がおかしいような気がする。


手の中のロケットを弄びながら物思いに耽るのが彼女の癖だった。

自室限定、だが。


ベッドにうつ伏せになり手元のロケットを開閉する。

中には3人が写った写真。

だが楓は知らない。

そういうものだ。これは、そういうものなのだ。

この世界における異質。特異。


ー見られてしまった。

楓はさぞ疑問に思っただろう。

いっそのこと葵ちゃんと一緒に加工して作った写真だとでも言っておけばよかった。

そうすればあそこまで訝しげにされることもなかっただろうに。


重いため息がでる。

私は肝心なときはいつもダメだ。

ツメが甘いというか。


さっきもそうだ。

楓はなぜかあの路地にいた。

予見しているのか。

もしかすると、”眼”がーー。


ふいにベルが鳴る。

スマホ、じゃない。

もう一つのピッチ(携帯端末)


「特異点観測、座標はーー」


急いで支度をする。

該当の場所までは急げば10分程度。

特異点が完全に形成される前には到着できそうだ。


これは自分で決めた事。

この身が滅びるまで使命に殉ずるだけ。


努めて何事もないような顔で玄関を出る。

服の中には女、子供に似つかわしくない凶器。

その感触が彼女に安心感をもたらしている。


ー話は戻るが。

今日はいつもより考え事が多かったらしい。

しかも内容は深刻ときている。


結果的に日課である薬の服用を、忘れてしまっていた。

ツメが甘いとは言っても今回のソレはあまりにも致命的過ぎた。

楓ですら知らないその薬は、普通じゃない彼女の身体を正常たらしめている命綱。

蔑ろにしては文字通り生死に関わる。


悩み多きうら若い少女が受け持つには辛すぎる十字架だが、それは自分で決めたこと。

ただ、一人の人間の人生を守るために。

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