常識がなかった彼について
物語の世界に少し憧れる。
ことくらい許してくれますか。
純也は、自動ドアの前で気絶しかけたことがある。
純也は、高度な技術を持つ人しかDVDを見ることができないと思っていた。
このように純也には、常識が備わっていないし、日本語を間違えるバカだった。
彼に常識が備わっていなかったエピソードをいくつか紹介しよう。
純也にバック運びを頼まれた時のことだった。
「あ、ちょっとそこのバックを取ってくれない?」
「いいわよ。このバック重たすぎない……」
やっぱり音楽をやっているから機材とかがいっぱい入っているのだろうか……。こんなのを持って活動をするなんて大変そうだなあ。
しかし純也は予想外のことをあっさりと言った。
「ああ、それは広辞苑が入っているから」
「……広辞苑……」
今頃秀才でもこんなものを持ち歩いたりしないだろう。
「うん。常識のある人間になりたくて広辞苑を読んでいるんだ」
純也は照れ臭そうに笑いながらそう言ってきた。
なんて無駄な努力を……。
「一生懸命読んで君にふさわしくなるから」
なんてロマンチックじゃないセリフなの……。かっこ悪すぎて情けなくなってくる。
ある日、聞いてみた。
「あなたはスマホを使わないの?」
「僕にはそんな超小型化した文明の産物なんて使いこなせないよ。
初めて自動販売機でジュースを買ったとき……人間はこんなに発達したのかって感動してしまいました」
そっか。あれってジュースが出る瞬間とか感動のあまり胸がドキドキと……はい冗談です。
「それに電話自体あんまり好きじゃないです」
「どうして?」
「トラウマがあって」
電話にトラウマ……。冗談ではなさそうなところがすごい。しかも口ぶりからして深刻そうだ。
「どんな?」
「僕は電話を使って悪いことをしました」
「オレオレ詐欺でもしたの?」
「いえ、僕は教会へ通っていたので誰かに嘘をついたことは一度もありません」
「……そっか」
あれかな。相手を傷つけたつもりが実は傷ついたのは自分だけだったとかいうパターン。
デートをしている時のことだった、
純也は、後悔しているようにつぶやいた。
「レストランの予習をし忘れた」
……この人はレストランで食べるためにいろんなことを勉強しなければいけないほどバカだったのだろうか。
「あ、間違えた。予習じゃなくて予約だった」
「バカバカ!あなたと話をしているとバカがうつりそう」
「えっ。由良さんも僕みたいになってくれるの!仲間ができたみたいでうれしい」
こういう奴のことを〝真のバカ〟というのだろう。
「とにかく、早く食べに行きましょう。
ほら、15階にレストランがあるわよ」
「じゃあ、十五階まで歩いて行こう」
「何よ!私が太っているとでもいいたいわけ?」
「エレベーターって何か酔うので」
「……」
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