白鳥 由良の章
ラストです。
小さいころから何回も転校した。何回も家族が変わった。
何度出会いと別れを繰り返しただろうか。
私は気がついた。
人間関係はいくらでもリセット可能だ。
誰かと知り合う。仲良くなる。離れることになる。
白紙に戻る。
誰かと知り合う。仲良くなる。離れることになる。
白紙に戻る。
同じことを繰り返して……繰り返し続けて……。
手に入れたものは何もなかった。
側にいてくれる人は誰もいなかった。
どうして……何も残らないの?
ああ、そういうことか。
仲良くなる必要なんてない。
馴れ合う意味なんてない。
どうせ無駄。
全部意味がなかった。求めていた私がバカだった。間違っていた。
他人は私を傷つけるためだけに存在するように見えてきた。
自分一人なら傷つかないですむのに。
……。
いらない。
誰もいらない。
もう仲良くなることなんてやめよう。
他人なんて冷たい態度で遠ざけてしまえ。
こうして氷の女、白鳥 由良が誕生した。
そんな世界に桜ヶ丘 彰は飛び込んできた。
ドアの向こうで、彰は、一人で立っていた。茶色の髪が夕日で染まっている。
「おかえり」
「彰、最後の別れを言いにきた」
そうして今まで起こったことを簡単に説明した。
「エリックがわがまますぎるのよ!」
「でも彼は天才だ。そして世界トップレベルの危険な人物。
俺はエリックに何一つ勝てない」
エリックは頭がいいけど完璧とは程遠い。
けれども彰がエリックの駒として利用されたことは事実だ。
彰は、エリックに負けた。
彼は悔しさや挫折感をごまかすような笑みを浮かべた。
彰が優しく声をかけてくる。
「由良はさ、俺に言いたいこととかない?」
これが最後だよっていう声が聞こえる。
本音と向き合うことが嫌いだった。
本音を言って世界が大して変わるわけでないとあきらめていた。
余計なことを言ってしまったら
何もかも壊れてしまいそうで怖かった。
私には何も言えない。
彰が一歩だけ私の方に近づいた。
「俺は由良のことが好きだよ」
ふと琥珀色の目に捕えられてしまう。もう逃げ出せないような錯覚に陥った。
何だか怖くなってきて目をそらしてしまう。
こいつの目は昔から大嫌いだった。
そのまっすぐした温かい真剣な目にいつだって負けそうになっていた。
一つだけどうしても言いたかったことが浮かんできた。
「……高校生の頃、あなたのバスケの試合を見た。
……めちゃくちゃかっこよかった。一番輝いていた」
顔が真っ赤になる。
これを言うのに何年もたってしまった。
私は……バカだ。
「え……」
彰は、一瞬魂の抜けたような顔をした。
「アハハハ。ハハハ。ハハハ……」
彰は気が狂ったように笑い出した。笑いながら泣いていた。
壊れたゼンマイ時計ようにバカみたいに笑っていた。
「俺だった……。由良が高校生の時惚れていたのはあいつじゃなかった……」
そして泣きそうな顔で聞いてきた。
「高校の頃由良は俺に惚れていた。そうだよね」
「……そうなら何か問題でも?」
ついケンカ腰で答えてしまう。
どうしても顔が赤くなる。
「今でも俺のこと好き?」
……。
「そんなわけない」
「うそつき」
彰は血がにじむくらい唇をかんでいた。握りしめたこぶしが震えていた。
そして怒っているのか、悲しいのかわからない声で……自分を責めるように言葉を吐いていく。
「うそつきだよ……由良は。
俺のこと大嫌いっていいながら、本当は惚れていて、試合に来ないって言ったのに来ていて」
彰は……気がついていると思っていた。
でも、それはきっと間違いだった。
「俺は……理想を押し付けないで由良をちゃんと見て好きになりたかった。
どんな最低な子でも由良を知ろうとした。
由良の言葉を信じた……だからずっと正解にたどり着けなかった」
理想を押し付けず〝言葉〟を信じようとした。
それではきっと〝言葉の裏〟は見えてこなかったのだろう。
「もしもたどり着いていたら……」
彰が後悔するようにうめいた。彰が言いかけてやめた言葉の先にあったものを想像して痛くてたまらなかった。
もしもたどり着いていたら……別の未来があったのだろうか。
けれども、今となっては何もかも手遅れだ。
決断することの重みは、いつだって過ぎてから実感した。
夕日が沈む前に彰とは別れることにした。
後ろを向く。彰が見えなくなる。
扉の向こう側へ行ったとき何かが終わった音がした。
もう二度と戻れない。
もう何も言えない
だからもう全て終わった。
またゼロに戻った。
誰かと関わっても何も変わらない。
関わることに意味なんてないと思っていた
……
やっぱり何も残らないよ
純也と出会い別れた
彰と出会い別れた
人間関係のリセット
ただそれの繰り返しじゃない
何も変わらない
出会って、知って、別れてそれでおしまいじゃないか
満たされないし、幸せになれない
喜ばせてあげられないし、助けることもできない
知り合った二人はすっかり元通り
結局最後には何も残らない
いや……
傷ついた私が残った
もう一度何もかもやり直したかった。
手に入れられなかったものがとても輝いて見えた。
あの時、切り捨てた自分が恥ずかしかった。
つまらないプライドを捨て死ぬ気でしがみつけばよかった。
別の未来が欲しかったんだ。
高嶺の花も手に入れてみたら、いつの間にか枯れた花になってしまう。だけど思い出の中の花なら、いつまでも綺麗な花のままだろ。
純也も彰もずっと私の中で輝いているだろう。
その存在は私にはとてもまぶしかった。
この小説は、昔、書いたものです。最近になって、ちょっとのせてみようと思い投稿しました。
本当は彰がメインヒーローの小説でしたが、あまりにも長すぎるので彼のシーンは大幅にカットしました。ごめんね、彰。
でも、書きたかったシーンはたくさん載せられることができてよかったです。
読んでくださりありがとうございました。




