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計画通り

 いつか頭脳戦とかも書きたいな。

 私、白鳥 由良は純也が殺した父親の息子という人に会うことにした。

 一人でアメリカに行く勇気はなかったので、桜ヶ丘 彰にも一緒に来てもらった。

 さすが彰。英語が堪能な彰は役に立った。

 けれども、被害者の息子とは私一人で会いに行くことにした。純也から、被害者の息子であるエリックが男嫌いという話を聞いたことがあったからだ。

 

 約束をとりつけた場所に行くと、エリック・ブラウンがいた。

 まぶしい金髪、青空を瞳にはめ込んだようなきれいな目。

 身長はスラリとしていて絵本に出てくる王子様みたいだと思った。 

 人形みたいな人だと思った。これほど人間味がないくらい綺麗な人を見たのは初めてだった。あまりにも整いすぎているからヤケドでもしてグチャグチャになってしまえという気持ちが湧き上がってきた。手足とか真っ二つに折ったらとても気持ちの良い気分になれるだろう。

「初めまして。僕はエリック・ブラウンです。僕のことはエリックと呼んでください」

 彼は、雪のように冷たい笑みを浮かべた。真珠のようにきれいな歯ならびの整った歯が見えた。

「白鳥 由良です。死んだ純也の結婚相手です」

 軽く自己紹介した後、彼は、私を自宅まで案内した。

 ドアを開けるたびに先に通される。

「これがレディーファーストというやつか……」

意味もなく赤の他人から親切にされるなんて気持ち悪いな。

「アメリカでは何でも女性が先だ。

 先にドアの向こうへ行くのも、死亡するのも」

「ひどっ」

 彼の部屋につくなり話しかけた。

「いきなりですがあなたに渡したいものがあります」

「渡したいものとは何ですか?」

 こういうことは単刀直入に言っても構わないだろう。

「お金です。純也が被害者の家族のみなさんに渡したがっていたのでとりあえず好きな金額だけ言ってください」

 純也ほどのお金持ちなら、大抵の額だったら渡せるはずだ。

 彼は私を見下すような冷たい笑みを浮かべながら言ってきた。

「こういうことは、普通、謝罪が先なんじゃないかな?」

「何言っているんですか?悪いのは、全て純也です。私は悪くありません。

 文句があるなら全て死んだ純也に言ってください」

 エリックは少し私の方に近づいてから質問をしてきた。

「君から見て僕は何をしている人だと思う?」

「学生に見えるけど……」

 モデルのバイトでもしているのだろうか?そしてこの場で自慢でもしようとしているのか。ケッ。心の腐りきった嫌な奴だ。顔にヤケドでもしてしまえばいい。

「実は僕はマフィアのボスだ」

「げっ……」

 この人は……あっさり爆弾発言をした。

 ……そういえば、詩織が殺されたとき事件の犯人は裁判で無実を言い渡されたって純也が言っていた。つまり犯人が裁判する人間を殺すと脅していたわけか……。

「僕は君を一目見た瞬間に運命を感じた。

 ……だから悲劇が始まった」

「どうして〝過去形なの〟?私とあなたが会ってから三十分も経っていないのに」

「どうしてだと思う?」

 彼は、おもしろいおもちゃを見つけた子供のように楽しそうに微笑んだ。

 すぐ近くにあった椅子を私が座れるようにおいてくれた。

 向かい合うように座って用意された紅茶を飲んだ。

「君の顔はさ、本当に詩織に似ているね。彼女にそっくりだよ。見ていて気が狂いそうになるくらい似ている」

 エリックは私の顔をじっと見ながら話しかけてきた。

「純也の幼馴染であった詩織のことですか?」

「ああ、そうだよ。僕に対しては敬語なんて使わなくてもいいよ」

 そう言われるとわざと敬語を使いたくなってしまう。

「詩織は僕にとって天使だったよ」

 そう言って彼は全ての感情を隠すように微笑んだ。

 ……私と同じ顔をしていてずっと性格がいいという女の子。

 詩織はきっとみんなに愛されていた。誰かと比べられているという事実が痛かった。



 計画通り。

 僕、エリックはそう思いながら由良を見ていた。

 思わず笑顔になる。

 すると、由良が敵でも見るかのようにまっすぐに僕の目を見てきた。

 詩織は、こういう表情は一度もしたことがなかった。

「あなたに一つ聞きたかったことがあるわ。

 純也は、昔、あなたを誘拐した。

 だけど、あなただったら純也が人殺しをするのを止められたんじゃないの?」

「もちろんそうだろうね。

 そもそも僕と出会わなかったら、純也はお父さんを殺そうとすらしなかっただろう」

 由良は、しばらく黙り込んだ。

 そしてようやく正解にたどり着く。

「あなたが純也に父親を殺させた……そういうこと?」

 思っていたよりも由良は、動揺していなかった。

 ふてぶてしい態度で僕にそう聞いてきた。

「そうだ。

 純也が僕を誘拐してお父さんを殺すように仕向けたのは僕だ。

 父親に詩織を殺すように仕向けたのも僕だ」

 何もかも隠すように冷たい笑みを浮かべる。

 由良は納得したような顔でうなずいた。

「やっぱりそうだったのか。納得した。だってあの純也だったら普通どっかで罪悪感が芽生えて計画をやめていたはずだから。詩織を殺したのもエリックなの?」

「そうだよ。僕がお父さんを操った」

「ふーん」

「君は理由を聞かないのか?」

「まあ、人間だし何か理由くらいあるかもしれないけれどそんなに興味ない」

 ここまで来たら全部話してしまうか。いつかは話すつもりだったし。

「おかしいと思わないか?」

 由良は、まだ気がついていないのだろうか?

「マフィアのボスであるこの僕に会えるのがこんなに簡単だなんて」

 驚いた顔で僕を見る由良。

 何かが彼女の頭を駆け巡っているようだ。

 だけど……もう手遅れだ。

 さらに一言付け足した。

「僕の表の情報を純也ごときが簡単に手に入れられるなんて」

 由良はようやくそれがおかしいと気がついた顔をした。 

 そしてしばらくしてから僕を睨みつけるように見ながら聞いてきた。

「どこから仕組んでいたの?」

「全部だよ」

 そう言って僕は怪しげな笑みを浮かべた。まるで世界は全て自分のもの言うように傲慢な笑み。

「今から四十七日と四時間三四分二一秒前に僕は君を見た。

 純也が被害者である僕に謝罪したがっているという情報が手に入って、純也について調べることにした。 

 彼が結婚していることを知りなんとなく結婚相手の顔写真を見てみた。

 そしたら、写真の中に詩織がいた。

 実際は詩織ではなくて君だった。詩織にそっくりな君がいた」

 あの時の衝撃は今でも忘れられない。

「僕は……昔、詩織が好きだった。

 だから、君にも少し会いたくなった。けれども、僕は詩織を殺したこともあり、詩織そっくりな君に会うことに抵抗を覚えた。

 とりあえず純也に会ってから君に会おうか考えることにした。

ちなみに詩織を好きだと知った君の感想は?僕のことをどう思った?」

「このロリコン」

「ひどい女だな。全然イメージと違う。僕は『純也がどんな人間でもいいのよ』という言葉で彼と結婚したと聞いてあなたがとても素晴らしい人間だと思った。そして」

 しかし由良は、そんな溜息をついてからこう言った。

「『純也がどんな人間でもいいのよ』って言った後にこう言ったの。『あなたにお金さえあれば』と」

「じ、純也に騙されるなんて……」

 そんな日が来るなんて思ってもなかった。

「とにかく、僕はそんな素晴らしい君にぜひとも会いたいと思った。しかし僕にはプライドがあった。どうしてこの僕が女の子に自分から会いに行かないといけないのか。

 そんなの僕の〝僕以外の人間なんてごみだ〟という信念に反する。

 そこで君から僕に会いにきてもらうことにした」

 種明かしの時間だ。

「まず、純也には〝僕が男嫌いである〟という情報を流した。

 純也の知り合いの女性は君しかいない。調べる限り純也は男性嫌いの被害者のところに無理やり一人で押し掛けたりするような人間ではない。おそらく帰ったら君に協力を求めようとするだろうと考えた」

 こうして由良は一人で僕に会いに来ることとなった。

「僕は邪魔者である純也にさっさと君と離婚して欲しかった。

 そこで純也を殺すことにした。

ここで登場するのが〝桜ヶ丘 彰〟だ。

 彼は、便利な駒だった」

 由良が驚いた顔で僕を見てきた。瞳が大きく開かれている。

 さすがに思いもよらない人間まで駒となっていることに驚いたか。

 それとも彰に特別な想いでもあったか。

 まあ、いい。二人にはもうすぐ別れてもらうことにしているから。

「彰は得体のしれない純也について調べたがっていた。

 だから僕が世界トップクラスの探偵ノアとして純也について教えてあげた。

 しかし純也についてはできる限り悪いイメージをもたせた。

 純也が殺人をした動機は、彼の音楽が侮辱されたからということに変えておいた。

 自分の音楽を侮辱されたことでカッとなって人を殺すような人間。人を殺して平然と音楽活動をして成功している男。

 すぐ隣にいる妻だって殺してしまうかもしれないくらい危険なイメージを彰に与えた」

 そうして狂気を含んだ笑顔を浮かべる。あんなに簡単に彰が騙されるなんて、おもしろくてたまらなかった。

「情報って人を操るのに便利だよ。情報にこだわる人間ほど情報に踊らされる」

 僕は、紅茶に口をつけた。

 由良も恐る恐る紅茶に口をつける。

 ああ。何だか向かい合って優雅に会話だなんてデートでもしている気分になってきたな。

「詩織が死んだデーターはとりあえずほとんど消し去った。雑誌、新聞関係、書類関係……あらゆるものを僕のところに集めて詩織の事故のデーターを世間から抹殺した。

 残ったのは遺族の記憶くらいだろう。

 少なくともネット上からはそんなデーターは見つけられないようにした。

 彰は世界トップクラスの探偵〝ノア〟に接触できるくらいだからかなり情報を集める能力が優れている。だからこそ詩織のことが絶対にばれないようにあらゆるものから詩織に関するデーターを削除し手置く必要があった。

 なぜなら純也が僕のお父さんを殺した動機を知ってしまえば、大抵の人間は同情心が芽生えてしまうだろうから。彰でさえも純也の情報を世間にばらすことはやめてしまうだろう」

 こうして僕は彰を操った。本当に、いい駒だった。

「君は英語をそんなにペラペラ話せない。純也が死んだらアメリカに彰が連れてくることにすればいい。純也殺しに協力したことで彰もそれくらいは協力しなければ気が済まないという気分になっているはずだから問題ないだろう」

 彰を駒として選んだ理由はもう一つ目的もある。

 彰は由良のことが好きだ。運よく純也が死んでしまえばさっさと由良と付き合ってしまう可能性も高かった。

 そこで彼に〝罪悪感〟をもたせることにした。彰自身が〝純也を殺す〟計画に加われば純也が死んだときに罪悪感が芽生えしばらく由良に手を出したりしないだろう。そう考えて彰を駒として利用することにした。

 由良は彰が自分に惚れていることを知らない可能性もある。だから、このことは黙っていた方がいいだろう。

「予想通り彰は世間に情報をばらまいた。

 そこで僕は計画Aを発動することにした」

 計画A。それは僕の努力の結晶!

「純也にはちゃんと自殺してもらう必要があった。詰めが甘いと計画は失敗する。

 だから彼には全ての人に裏切られるというエンディングを用意した。

 まあ、おそらく君は純也を助けようとしたと思うけど」

 由良は、僕の話を大人しく聞いている。

「一人で作った五個のアンチスレを立ち上げた。純也の過去のうわさが広まると同時に、あらかじめ作っておいたコメントを純也のファンクラブとそれまで投稿した動画に流す。

 世間には優しい人間だってたくさんいる。

 そういう人は例え純也に世間に叩かれている様子があまりにもかわいそうになって優しいコメントをしてしまうかもしれない。だから僕は、純也の記事に対するコメントを僕以外の人間が投稿できないようにブロックした。

 他の人間がコメントをするときに、ネット上に次のような文が表れるようにした。


『混雑しているためすぐには載せられません。まことにすいません』


 これだったらみんな納得してくれるだろう。

 そして純也が自殺したと知ったのちに僕以外のコメントも流せるようにした」

 僕は喉が渇いてきたから紅茶を飲んだ。

「つまり、あの純也の記事に対する一万件以上のコメントを一人で全部うった。約一万人分のアドレスを使いながら」

 由良はあきれたような顔で紅茶を飲んだ後に僕に聞いてきた。

「そこまでめんどうくさいことをした感想は?」

「久しぶりにいい頭の体操になった」

「……本当にバカなのか天才なのかわからない感じ」

「僕は天才だよ。予定通り君は僕に会いに来た。

 今は、チェック・メイトっていう感じかな。

 全てが僕の筋書き通りだ」

 自分が作り出せる最高の笑顔を由良に送る。

 何もかもを見下すような傲慢な笑み。

 その下に隠れているものは君にはわからないだろうな。


 僕は最後に世間話をするような軽い口調で切り出した。

「ところで桜ヶ丘 彰という人間がむかつくから殺してもいいよね」

 由良はムッとした顔をして僕に反論してくる。

「大体私の周りの男達を殺そうとするなんて独占欲でもあるわけ?」

「この寛大な僕に独占欲なんてあるわけないだろう」

 これだから女はめんどうくさい生き物だ。

「僕の寛大さは神と同レベル。

 この天才的な頭脳も含め人類で最も神に近い男は僕だ!

 そのうち新世界の神になってくださいという依頼が天国から来るかもしれない」

「そのうち世界平和のために早めに死んでおいてくださいとでも依頼がきそう」

 あれかな。僕があまりにも素晴らしい人間すぎてドン引きしているのかもしれない。

 やっぱり人間らしい醜い感情だった見せておかないと。

「まあ独占欲はないけれど……君の姿を見た人間の全員の目を抉り出したいと思ったりする。そして、僕は自分の獲物にちょっかいをだしてくる泥棒猫は殺したくなる性格をしている。君が彰と絶交すれば殺さなくてもいいよ。 どうする?」

 由良の答えは一つだろう。


 読んでくださりありがとうございます。

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