宵闇騒動~恐怖~
なんだかヒナタが、また逆恨みされてるような……大変だな、ヒナタ。
なんてのほほんと他人事の様に、ただ皆の様子を離れたところで彼女と見ていた。
彼女は僕よりも少し後ろにいる。
ヒナタ以外は、もう既に相手を捕まえていた。
アスカは相手が切りかかってすぐ『その場から消えて、突然相手の真上に現れて』綺麗に後頭部を蹴り倒し、そのあと金属矢で身動きを封じた。
シオンは、相手の斬撃を躱してから、左手を目の前へ向けた。そして、『相手の首から下は凍りついた』
サカキに至っては躱してさえいない。しかし、『相手の攻撃はサカキに届かない』
そして、相手は『サカキの影から出てきたもの』に捕まった。
ヒナタは……まあ、動きが止まっているし、これはこれでいい……のかな?
なんか言い合いが始まってるけど…
不意にヒナタの相手が「ただ少しかっこいいだけで」とかなんとか言った。
「違う‼︎」そして、重量感のある否定の声が響く。何故か即座に反応したのはアスカだった。そして……
「違う‼︎ヒナタは、ヒナタはかっこいいんじゃない‼︎かわいいんだよ‼︎ツンデレだ‼︎」
とかなんだか場にそぐわない話が始まる。
「そもそも、ヒナタをかっこいいっていうこと自体おかしい‼︎ヒナタはどう考えてもかわいい部類に入る‼︎それは何故か?ツンデレという部類に入るからだ‼︎ただ、ヒナタの場合、ツンデレというには少し違う。ツンデレはそもそも
「初めは敵対的だが、何かのきっかけで過度に好意的状態に変化する」、
「普段はツンと澄ました態度を取り、ある条件下では特定の人物に対しデレデレといちゃつく」、
「好意を持った人物に対し、デレッとした態度を取らないように、ツンとした態度で天邪鬼に接する」
ことを指す。そう考えれば二つ目に当てはまりそうだが違う。
ヒナタの場合、「普段は誰にでも気のない、澄ました態度をとっていてキレやすいし、それで喧嘩になった後、自分から謝りに来るもけど恥ずかしくて顔が真っ赤になりながら、でも謝ろうと頑張る」姿がかわいいんだ‼︎ツンデレとは少し違うようなツンデレなんだよ‼︎見た目に騙されてんなこともわかんないお前は猿以下だ‼︎バナナでも貰ってさっさとサル山にでも帰れ‼︎‼︎……」「お前は地獄に逝け‼︎‼︎」
アスカの話がほぼ終わると同時くらいに、ヒナタの華麗な飛び膝蹴りがアスカのお腹に炸裂した。アスカは背中から地面に落ちた。
「いったぁ……何すんだよ、ヒナぁ」
だけど、アスカはすぐにお腹をさすりながら、ゆっくり起き上がる。だ、大丈夫……かな?
「う、るっさい‼︎うるさい‼︎大体、君が人のことを変な風に言うからだろ‼︎自業自得だ‼︎このアホバカ‼︎‼︎」
ヒナタの顔は真っ赤になっていて、恥ずかしかったのか少し声が上ずっている。
「あはっ、ヒナ顔真っ赤ぁ〜」
「ひゃっぺん死ね」
ヒナタはアスカへ、蹴りを繰り出す。
アスカもアスカで、避ける。
あーあーあー……
だけど、ヒナタはさっき「僕も強制」と言った。あのときは少し反論したくなったけど…
つまり、今いる人達だけじゃない……?
嫌な、予感がした。「……⁉︎」彼女の方から。
すぐに振り向く。彼女と目が合った。
彼女の身体には、赤い光が点となり動いていた。そして、頭で静止する。
僕は走り出す。彼女に手を伸ばして。
「…………‼︎」彼女の名前を、呼びながら。
すぐ近くの茂みから、銃声が聞こえた。
彼女は、僕の腕の中にいる。無事だ。
僕も、どこにも痛みはなく、傷もない。
茂みは揺れ、ゆっくりと何かが出てきた。
人だ。銃を持ち、銃口をこっちへ向けて。
僕らの方へと。歩み寄ってくる。僕は、彼女を抱きしめたまま、音がする方へ顔を向ける。目が、あった。
「運がいいな。」嫌だ、
「次はない。」嫌だ、
「お前は厄介だな。勘が良すぎる。」嫌だ、
「お前から殺す。」銃口は、僕へ。嫌だ、
引き金にかけられた指は、少しの躊躇いもなく、無慈悲に動く。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、
声が、嫌だ、頭の中で、嫌だ、笑う、嫌だ、
『あぁ〜あぁ〜、もうダメかもねぇ』嫌だ、『ね、その子を守りたいでしょぉ?』嫌だ、『みんなと一緒にいたいよねぇ?』嫌だ、『ね、』僕は、
『死にたくないよ』生きたい。
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
ーー意識は、まるで海の中にいるように、沈んでいった。