宵闇騒動~だぁれ?~
数秒……そう、たった数秒だった。
驚きと、焦りと、悲しみが入り混じったような表情は、また笑顔に変わっていった。
眼を細めて、どこか寂しさのような、悲しさのような。でも、穏やかな微笑だった。
-紗音は、どうしてあんな顔をしたのだろう。
「えっ…と、僕は紗音。この家の、居候みたいな感じかな?よろしく……ね」少し、オドオドした感じで言う。紗音は彼女を『知っている』?
…まあ、別にいいけど。これで全員かな。
「じゃあ、もう行くよ。もたもたしてらんない」
「あれぇ?もう行くのか?」…このアホ。
僕は半分呆れ顔で、行くと言っている
のに無駄な停滞をさせて、それこそ余計な時間を食わせたアホ……アスカの鼻を右手の親指と人差し指でつまんだ。そしてそのまま顔をギリギリまで近づけて言った。
「面倒なことになる前に、家に帰る。もう結構近くに来てるみたいだしね。さっさとぱっぱとちゃっちゃと。わかった?」
「お、おう…わかった。大丈夫、大丈夫」
呪文のように大丈夫を繰り返すアホバカから指を離し、一直線に、小走りに近い感じで歩き出す。後ろで足音がするので、みんなついてきてるようだけど…嫌な予感がする。
その予感は、現実に変わるまで時間は要らなかった。
「………!」真横の茂みから、スッと目の前に現れたのは、月の光を浴びて輝く-銀色の、刀身。
反射的に身体を横にして、刀身は頭に当たるか当たらないかギリギリのところだった。というか、髪の毛が数ミリ切れた。
横目で状況を把握する。どうやら僕だけじゃない。みんなそれぞれ狙われている。『見える』相手は4人。でも、もう1人何処かに隠れている。それを踏まえて、『5人』。
僕らも、もちろんあの子は外して5人。
そして、あの子は「お客様」だ。最優先すべき、守るべき対象……『今日の仕事』。僕は舌打ちをした。
「紗音!今日は君も強制だから!やることはわかってるでしょ⁈文句は言わないでよ‼︎」突然言われたことに驚いたのか、それとも『いつものこと』か……紗音は目を見開いて、何か言おうとしていた。そして、口をつぐんだ。まあ、何を言われても気にしてらんない…けどっ‼︎
懲りずに僕に狙いを定め、襲おうとする刀身。
ガキンッ‼︎
鈍い音が空に響く。相手の刀身は僕に届かなかった。それもそのはずで、僕には刀があった。日本刀だ。それを抜いて、相手のを防いだ。
「…っ⁈」
「…これ、銀製でしょ?」
「……‼︎」
「やっぱりね」
勢い良く後ろへ下がる。相手も同じような行動を取った。そうして、相手の切っ先は僕の方へ、僕のは地面へ。そして、静寂。
しばらくして、向こうが口を開いた。
「六条………ヒナタの方か?」
「何?僕のこと知ってるんだ?」誰だっけ?思いっきり知らないんだけど。
「よーく知ってる。お前のそのすました顔は、昔っから気に入らなかったんでな。」
やっぱり知り合いだ。本当に本気で、誰?
「お前が居たから、俺は…俺は〜〜っ‼︎」
いきなり情緒不安定になった。というか、なんかやけに恨みがましい。もしかしなくても…逆恨みされてるっぽいな……。
「彼女に振られたんだっ‼︎」あ、逆恨みだ。完全に。またか…………本当、いい加減にしてよ。
「……それは、別に必ずしも僕のせいって訳じゃない。確かに、君の彼女が僕に…どこが気に入ったんだか知らないけど恋愛感情を抱いて君を振った。そもそも僕は別にかっこいいってわけじゃないし、そういう感情を抱くような対象じゃないし……。
でも自分は最高にかっこいい、彼女に振られるなんてありえない、なんて思い込んで何もしなかった君が、一番の原因だと思うよ。
よくいる、そういう奴。自分のこと棚に上げて、僕のせいで振られたとか言ってるの……君で軽く50人くらいだね。迷惑だよほんと。それにそういうのは典型的な逆恨みだし」
「〜〜〜〜っ⁈う、うるさい‼︎うるさい‼︎」
「図星、か。最悪」
こういうことは良くある、あり過ぎる。逆ギレしたいくらい。
あぁ…もう……本当に、ウザい。