第2話:聖女様の要求が、あまりにポエジーすぎる
今回お届けするのは、僕がずっと温めていた「書くこと」と「恋すること」をテーマにした物語です。
皆さんは、誰かに手紙を書いたことはありますか? あるいは、SNSの短いメッセージを送る前に、何度も書いては消してを繰り返したことは?
言葉にするのは難しいけれど、言葉にしないと伝わらない。
そんなもどかしさを、学校一の美少女――でも性格はちょっと(かなり?)難ありなヒロイン、白雪エリカを通じて描いてみました。
もし、隣の席の美少女に自分の書いたラブレターを真っ赤に添削されたら……そんな最悪で最高のシチュエーションを、どうぞ最後まで楽しんでください。
「……白雪さん、あの。もう1時間以上、ここ(第4行目)で止まってるんだけど」
放課後の図書室、その最奥。
僕と白雪さんは、一冊のノートを挟んで座っていた。
彼女は「聖女」の仮面を脱ぎ捨て、鋭い眼光で僕の書いた『ラブレター・改』を睨みつけている。
「黙って、神代君。今、あなたの言葉の『鮮度』を確かめているところよ」
彼女は僕のノートに、サインペンでさらさらと何かを書き込んだ。
「……ここ。『夕日が綺麗だね』。これ、最悪よ。夏目漱石の時代からどれだけ擦られてきたと思っているの? 読者はもっと、喉の奥が焼けるような切なさを求めているわ」
「要求が高すぎない!? 僕、一応これでも昨日、徹夜で考えたんだけど……」
「徹夜した自慢なんて、プロを目指すなら二度と口にしないで。……いい? もっと具体的に、私をどうしたいのか書きなさい。例えば……そう、今の私の指先が、あなたの袖に触れそうになっている、この距離感を言葉にするのよ」
そう言って、彼女は机の下で、そっと僕の制服の袖をつまんだ。
心臓がうるさい。図書室の静寂が、僕の鼓動を増幅させている気がする。
「あ、あの……白雪さん? 近いんだけど」
「……これは取材よ。リアリティのない文章は、ただの記号でしかないわ。ほら、書きなさい。私の指が、あなたの体温を奪おうとしている……みたいな、不器用で、でも必死な一文を」
彼女の顔が、僕の肩に乗るくらいの距離まで近づく。
長いまつ毛が震えているのが見えた。冷徹なはずの彼女の瞳が、少しだけ潤んでいるように見えるのは、夕日のせいだろうか。
「……書けた?」
「……『君の指先が、僕の理性を少しずつ削っていく』。これでどうかな」
僕がやけくそで書き殴った一文を見て、白雪さんはぴたりと動きを止めた。
次の瞬間、彼女はパッと僕の袖を離し、ノートをバタンと閉じた。
「……今の、は」
「え?」
「……及第点。というか、少しだけ『あざとい』わね。……でも、悪くないわ。今日の添削はここまで」
彼女は素早く荷物をまとめると、顔を背けたまま立ち上がった。
でも、隠しきれていない。
彼女のうなじが、さっきの夕日よりもずっと赤く染まっているのを。
「あの、白雪さん。明日は……」
「……明日もやるわよ。まだ一章も終わっていないもの。勘違いしないで、私はただ、この物語の『結末』が気になるだけなんだから」
彼女は逃げるように図書室を出て行った。
僕は一人残され、閉じられたノートを見つめる。
そこには、僕の文章の横に、彼女の小さな文字でこう書き加えられていた。
『――そんなこと言われたら、私が期待しちゃうじゃない。バカ』
……これ、添削じゃなくて、僕が彼女に「書かされている」だけじゃないのか?
第2話までお読みいただき、ありがとうございました。




