懇願(3)
「お前ら、自己紹介しな」
「……はい。俺はカミック・スターリア。シュパーブ商隊で働いている。良いか? ユメ・サクラ。もし妙なことしたら、どうなるか分かってるな?」
「俺はカロック・スターリア。カミックの弟。姐さんが言うなら信用してやる」
「ほら、スラヴィアも自己紹介するんだ」
「す、スーはスラヴィア。人間じゃ、ない。せーれー、なの」
「精霊……?」
夢はスラヴィアを注視する。透き通るような白い肌に、真っ青な瞳。しかし足は地に着いており、異世界の人間にしか見えない。呆然と見つめる夢が気に食わなかったのか、スラヴィアは頬を大きく膨らませる。
「スラヴィア、ユメはまだ信じられていないみたいだよ?」
「……だったら」
スラヴィアが前に出る。怯えた表情は消え、川面を睨みつける。指先から冷気が渦巻くと、それを間髪入れずに飛ばした。轟音とともに一瞬にして水面が凍りつき、穏やかな水流は完全に停止した。
「……凍った」
「どうだ! てんいしゃ!」
スラヴィアは胸を張る。夢の周囲には霜が降っており、急に凍った水面は寒暖差でひび割れる。川で泳いでいた魚は内臓まで凍っており、泳いだ形のまま『保存』されていた。一瞬で環境さえ一変させてしまう異質な力に、夢は心身ともに芯から冷えきった。
「よくやった、スラヴィア。さて、最後は私だな。私はシュパーブ・コルト。このシュパーブ商隊を率いている。まぁ、大層なことはやっていないがな」
シュパーブが笑顔で夢を見る。夢の表情は依然として硬く、首を縦に振ることしかできなかった。
「さて、呼び方はユメで良いかな? さっき、『何でもする』って言ったね?」
「はい」
「早速だが、これから任務だ。カミックとカロックには既に伝えているが、馬車の荷物を守って欲しい。今から言うことは一度しか言わないから、心して聞くように」
生き延びるため、食い気味に耳を傾ける。
「今運んでいるのは、簡単に言うと薬草だ。これをここから馬車で数日かかる診療所に卸す。その間、夜盗や獣から守るんだ。まぁそれはカミック達に任せるんだが、ユメは目的地に到着した後、問屋へ運んで欲しいんだ。問屋の主はヴァーソ・ヴィクトリス。私からの遣いだと言えば、門番は通してくれる筈だ」
夢はことの一切を飲み込んだ。しかし、双子は一斉に不安そうな顔をしている。まだ私を信用していないのか……。夢の表情が曇る。
「やることはそれだけだ。やれるか?」
「……やります。成功できるよう、最善を尽くします」
「良い返事だ。スラヴィア。ユメと一緒に馬車に乗ってくれ」
スラヴィアは無言で頷くと、夢を馬車へと案内した。脚を引きずりながら遠ざかって夢を見ていた双子だったが、彼女の姿が見えなくなると、ほぼ同時にシュパーブへと視線を移した。
「姐さん、大丈夫ですか? ヴァーソさんに会わせても」
「私は、あいつに試練を与えた。街での転移者の評価を、知って貰おうじゃないか」




