縁故(1)
華やかなパレードが、一瞬にして怒号と悲鳴で埋め尽くされた。アザレアの額に汗が滲むが、彼女は落ち着いて、シュパーブを葬り去ろうと、詠唱もせずに魔法を飛ばす。しかし、身のこなしが軽いシュパーブはそれを簡単に避けてみせた。
「どこに打っている? お嬢様」
「この愚民が! 私を騙したな?」
「私はただの商人だ。調達して何が悪い」
上空から、未だに橙の魔法が降り注いでいる。アザレアにも例外なく纏わりつくと、彼女は力が抜けたかのように地面にへたり込んだ。それを合図にするように、壇上にフローとアトラが上がってきた。彼女の姿を見た民衆は、怒りを忘れて呆気に取られていた。
「なぜ、フロー・アクロスが……?」
「投獄されたって、新聞に書いてあったのに」
民衆がパニックに陥りそうになったのを見越して、フローがアザレアを魔法の牢の中に閉じ込めると、堂々と話し始めた。
「私は、このアザレアに、冤罪をかけられたのだ! レオーネ殿、どうか釈明して欲しい。一カ月前の、あの会談を!」
魂が抜けた顔をしていたレオーネだったが、フローの生存を見て生気を取り戻す。慌てて立ち上がると、民衆が静まり返った。彼は公人として堂々と立っていたが、表情は怯えた子犬のようだった。
「フロー・アクロス……? 牢獄に入れられたのは知っていたが、まさか、私のせいで?」
「そんなことはない。あのアザレアが、私に冤罪を擦り付けたのだ。あの女は新聞書きに、私が機密情報を貴殿に漏らしたとでっち上げ、逮捕の口実にしたのだ」
「機密情報だって!? あの握手の時に? とんでもない! 私はフロー殿を、我が国とビュートとの懸け橋になるよう、激励の意味を込めて握手をしただけだ!」
民衆が再びざわつく。新聞の内容が嘘だった、俺たちは洗脳されていたのか、口々に怒りと不安、そして恐怖が溢れる。フローはもう、つい先日まで自身を罵倒していた民衆に対し憐みの眼差ししか向けられなかった。脚が震えているレオーネだったが、口は正直だった。
「ビュートの民よ。どうか落ち着いて欲しい! 皆はあの女に騙されただけだ! 皆は何も悪くない! 現に私も騙されて、この祝典とやらに参加させられたのだ! フロー殿、この状況をどう収めるつもりだ?」
「実は、このビュートにはもう一人、転移者がいる。彼女に任せる」
「転移者が、転移者を……?」
「大丈夫。彼女は私の救世主だ。何より、魔法も使えない」
「そんな女が、どうやって救世主に……?」
「フロー様、もうよろしいでしょうか」
痺れをきらした夢が、壇上に上がる。魔法の牢獄に閉じ込められたアザレアは愕然とした。あいつ、あの時の……! そう思う間もなく、夢が詰め寄ってくる。
「ねえ、一つ質問に答えて。貴女、転移者?」
「……モブに答えると思った?」
アザレアの唾が、夢の身体にかかる。しかし、彼女は勝ち誇ったようにアザレアを見下した。
「モブ、か……。ヴィヴァーロでぶん殴った男にも言われたけど、モブ、良い響きだわ」
「どういうこと……?」
「だってあんたの部下、私のこと見つけられなかったじゃん。あ~、モブで良かった~」
「なっ……! あれはタイロン家の仕業で、私は関係ない!」
「じゃあタイロン家の連中、連れて来いよ。釈明させろよ」
アザレアの表情が凍る。タイロン家を皆殺しにしたことを今更後悔した。「あ、あ……」と狼狽えることしかできない彼女を前に、民衆の怒りが増幅していく。すると、三人の憲兵が、民衆に立ちはだかる。
「静粛に! 私はフロー・アクロス様の命でこの場を収めに来た! ミック、ロック。皆を避難させろ!」
「了解!」
モンテロがアクロス家の紋章を付けて、暴徒寸前の民衆を収めようとしていた。彼の声が合図となり、アザレアの元から憲兵が離れていく。一人、また一人と広場に集う憲兵が、民衆に声を掛けながら広場から退避させていく。




