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脱獄(3)

 監獄の正門前では、モンテロが陣頭指揮を執っていた。ユメ、モッカは処刑の為に馬車の荷台に載せられている。


「ちょっと、なんで私まで処刑されることになってるの!」

「仕方ないじゃないですか……。連帯責任みたいですし」

「で、この中にお姫様が乗っているのは誰か知ってるの?」

「多分……、私たちしか知らないと思います」


 二人の隣に意味深に鎮座している麻袋。それは母親を蹴る胎児のように、少しだけだが動いていた。夢がこっそりと中を覗く。


「ユメ、覗くな。怪しまれる」

「生存確認ですよ、お姫様」

「そろそろ動くみたいですよ。座りましょう」


 足枷を気にするモッカが、死んだ目をして御者台を見る。そこにはカミックが乗っており、チラチラと荷台の様子を見ていた。その直ぐ後、モンテロが乗り込んできた。幌を閉めると、小声で告げる。


「我々の後方には、タイロン家の主、アマロックが乗る馬車がついてくる。恐らく、自らの目で処刑を見るつもりだ」

「アザレアは?」

「いない。多分、夜のパレードだ」

「それにしても、よくカミックさんを御者台に乗せるの許可しましたよね」

「経験あります! って直訴したらこうなったらしい。こっちとしては好都合だがな」


 モンテロが再び幌を開け、アマロックが乗車したことを確認すると、「馬車を出せ!」と一喝した。馬に鞭を打ち、ゆっくりと走り出す。車体が揺れる度に、車内の緊張が高まった。

 それは後方の馬車も同じだった。一拍遅れて、処刑台へと走り出す。車内にはアマロックと、彼の長男であるゴル、次男のバズがいた。アマロックは前方の馬車を注視しながら、指を忙しなく動かしている。


「父さん、これから処刑が始まるんだって?」

「ああ、ゴル。お前には少し刺激が強すぎるものになるかもしれんが……」

「そんなことないよ。寧ろ楽しみ! 俺達に逆らったらどうなるのか、思い知らせてやる!」


 何も現実を知らない二人の息子が、和気藹々と処刑について話している。対照的に、アマロックの冷や汗が止まらない。あたかも自身が処刑場に連行されていく気分だった。農道沿いの川の向こうでは、アザレアとその腰巾着がパレードに興じている。この状況がどうしても恨めしく、羨ましかった。

 いよいよ、街の光が見えなくなってきた。カミックが目を凝らしながら、障害物を確認する。すると、この時間なのに一台の馬車が通り掛かった。


「おい、こっちは大切な用があるんだ! どけてくれ!」

「あ? お前誰に向かって口利いてるんだ? こちとら夜市に商品卸さなきゃいけねえんだよ!」


 ドスの利いた女性の声を聞いたカミックは、確信した。顔が綻ぶのを抑え、茶番劇に付き合う。


「夜市ぃ? じゃあ荷物の中見せてくれや」

「どうぞどうぞ。私は怪しいものなんて、何も持ってないんだからな」

「モンテロさん、どうします」

「分かった。行ってこい。それとこいつ」


 麻袋を背負い、モンテロが直接出向く。怪訝に思ったシュパーブだったが、モンテロが食ってかかった。


「さっきの言葉、そっくりそのまま返してやる。俺を誰だと思っている。タイロン家直属の憲兵、モンテロ・グン兵長だぞ。これやるから、さっさと失せろ!」

「やけに重たいな。何が入っている」

「自分で確認しろ」


 モンテロが腕を組んでシュパーブを見つめる。彼女の背筋が伸びたのは、その直後だった。


「……良いのか? こんな高価なもの」

「ああ。分かったらそれ持ってとっとと退け」

「分かった。こりゃ市場で高く売れるな……」


 真顔のシュパーブが、荷台に麻袋を投げ入れる。「すまない、フロー様……」と誰にも聞かれない小声で詫びて、馬車に乗ろうとするが、思い出したかのようにモンテロの元へ戻ってくる。


「あんた、政府の奴か」

「そうだが」

「うちな、人身売買もやってるんだ。この荷台に誰かいるんだろう? 私は罪人でも高く売り飛ばせる話術がある。荷台の中を見せておくれよ」

「それは流石にだめだ! この中にいるのは……。いや、これ以上は言えない」

「嘘ついたって私の目は誤魔化せねえぞ。しょうもない罪人しかいなんじゃねえのか?」

「しょうもないというか、完全に冤罪なんだけどね……」


 荷台の中で、夢が呟いた。モッカも激しく首を縦に振る。すると、後ろで物音がした。夢がこっそり幌を開けると、アマロックの息子たちが苛立ちを隠せない様子で、シュパーブに詰め寄っていた。


「あのさ、これから処刑あるから、どけてくれない? 平民の癖に、憲兵の馬車の妨害してんじゃねえぞ」

「ほぉ、これはこれは、タイロン家の将来を担う素晴らしき殿方じゃありませんか。バズ様、でしたっけ? 先日のお金バラマキ行事に出席されていましたねぇ」


 シュパーブが新聞記事の記憶を頼りに、話を長引かせる。バズは何も言えず、困惑した様子で馬車を見る。一方のゴルは、荷台に近寄っていった。


「人身売買だぁ? そんなこと、俺たちの前で大っぴらに話していいわけ? 直ぐ捕まえちゃうぞ?」


 灯りがほぼない馬車の荷室を確認する。そこにはいくつかの木箱と先ほど渡した麻袋、変装したカロック、そして爆睡するスラヴィアしかいなかった。


「おい! こいつ男と少女を荷台に載せてる! 人身売買業者ってのは本当だったんだ!」


 大声で叫ぶゴルに対し、スラヴィアの眉間に皺が寄る。血相を変えて荷台へと走ったシュパーブが、慌てて幌で隠す。ゴルはにやけており、シュパーブを値踏みするように見ていた。


「あーあ、証拠掴んじゃった。どうする? ここには憲兵もいるから、じっくり話聞くか?」

「そいつは私の同業者だ。手出しすんじゃねえ!」

「同業者? あのチビが? 嘘つくのも大概にしろ!」

「嘘じゃねえ! こいつは私にとってなくちゃならねえ存在なんだよ!」


 感情的になったシュパーブが、大声でまくし立てる。それに釣られるかのように、ゴルの声も大きくなる。


「そこまでだ! 言い訳は俺が聞く。先ずは荷台を見せるんだ!」

「おう、兵長さんよぉ。あの袋で見逃してくれるんじゃなかったのか?」

「それとこれとは話が別だ! 私が見てくる」


 モンテロが荷台を覗く。そこには間違いなくスラヴィアとカロックがいた。フッと笑うと、「スラヴィア、ごめんな」と軽く詫びを入れる。そして、大きく息を吸った。


「起きろ! 出るんだ!」

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