決意(1)
翌朝、鳥のさえずりが聞こえるより先に、シュパーブ一行はモンテロのバーにいた。他の酒場が店仕舞いを始めているが、モンテロは一行を快く迎え入れた。
「おはようございます。こんな朝早くからすみません」
「朝早くに来いと言ったのはお前だろ、モンテロ。二人も連れて来たぞ」
「はい。では早速ですが、昨日の夜、パレードの前夜祭がありましたよね? あの時にフロー様が収監されていた牢獄まで行ったんです」
一行をカウンターに座らせ、温かいお茶を差し出す。湯気が立ち昇るカップを手に取ると、夢はゆっくりと啜り、束の間の安息に浸る。
「で、どうだった」
「タイロン家の紋章をつけなければ、門前払いされます。なので私もこれを付けて、フロー様の居場所を探したんです」
「ちょっと待って。どうして紋章を付けただけで入れるんだ?」
「そこが疑問なんだよ、カロックくん。憲兵の目は心ここにあらずって感じで、ただ紋章の有無だけで敵か味方かを判断していたんだ」
「……じゃあ、その制服さえあれば、潜入できるとか?」
夢は呟くように話す。それをモンテロは聞き逃さなかった。よくぞ言ってくれたとばかりに、身を乗り出す。
「俺もそう考えたんだ。一応、この紋章はタイロン家から支給されたものだ。だけど、アトラに『毒抜き』をして貰ったんだ」
「毒抜き、ですか」
「うん。どんな細工をされていたか分かったもんじゃないからね。アトラによると案の定、洗脳の魔法をかけていたんだ」
平然と語るモンテロに、双子の背筋が凍る。フローの救出は、一筋縄ではいかないことを悟った。
「ここから本題だ。カミックくん、カロックくん。この制服を着てくれ」
タイロン家の紋章がついた憲兵の制服を、二人に差し出す。先ほどの話を聞いた双子は、どうしても手が伸びずにいた。胸元で不気味に光るタイロン家の紋章に、恐る恐る触れる。
「これ、魔法かかってないですよね……?」
「勿論。アトラに毒抜きして貰ったから、安心して」
「兄貴、モンテロさんが言ってんだから受け取ろうぜ? 姐さんの目も怖いし……」
「いや、そうは言っても……」と言い終わる前にカロックが耳打ちをして、シュパーブの方を向かせる。彼女は射るような目つきで双子を見ており、「受け取れ」と言わんばかりだった。腕を組みながらも指をせわしなく動かしている彼女の姿は、時間に追われる商人そのものだった。
断れる雰囲気でもないと悟った二人は、ゆっくりと制服を受け取る。誰かが着ていた使い古された制服なのに、紋章だけが真新しい。
「ありがとう。それじゃあ、奥で着替えてくれ。アトラとスラヴィアはまだ寝ているから、気を付けて」
「何を気を付ける必要が……?」
「兄貴、スラヴィアが一番嫌いなものは何だった?」
「……安眠妨害」
二人はとぼとぼとした足取りで奥へと消えていく。その間、モンテロは夢にお茶のおかわりを差し出した。コマの屋敷で飲んだそれとはまた違う、茶褐色で渋みの強いものだった。「ほうじ茶みたい……」と静かに呟きながら、ゆっくりと啜る。
「本当、アトラさまさまだな」
「はい。なんで俺なんかと結婚してくれたのか、今でもちょっと疑問に思いますよ」
「精霊が人間に惚れるなんてこと自体、なかなかないからな」
「そこはほら、混合種ですから。人間の感情もあるんでしょう」
シュパーブが他愛ない話で場の雰囲気を作っているうちに、双子が戻ってきた。彼らのガタイの良さに恥じぬ着こなしで、夢は両手で口を抑えた。
これが本当に私と同年代か? と夢が思うほど、凛々しくなっている。弟は荒っぽさが消えており、気恥ずかしさで俯いているのもあって、大人びた雰囲気になっていた。
「どうした? 俺に惚れたか?」
「そんなわけないじゃないですか。ただ……」
「ただ?」
「黙っていれば、カッコいいなって……」
「最初のは余計だ。やっぱお前といると調子狂うわ……」
カロックがどっかりと椅子に座ると、モンテロの咳払いが聞こえる。若者の背筋が伸びたところで、モンテロが大きな紙を取り出した。




