交錯(2)
真夜中の市街地で、命を受けた側近は、魔力の残滓を頼りに夢の捜索を行っていた。「転移者は例外なく魔法が使える。魔力が漏れ出ている奴を片っ端から調べろ」という忠告が、側近の頭の中で反芻する。精霊が持つ澄んだ魔力や、微弱な魔力を捜索範囲から除外しながら、中心街へと走った。
「うぅ……、人酔いしそう……」
身長の低い夢にとって、深夜の喧噪は地獄だった。カミックの後ろをついていくが、それでもはぐれそうになる。パレードの前夜祭が始まったことを知らなかった一行は、馬車の停留所まで歩くことすら手こずっていた。
そこに、男の怒号が響く。周囲が静まり返ると、一人の女性が怯えていた。
「なんのことですか!? 私、転移者なんかじゃありません!」
「その魔力はなんだ! 髪の色も黒っぽいし、何か隠しているな?」
女性の胸倉を掴む側近。夢の血の気が引いていくのを、シュパーブは見逃さなかった。
「まさか、私を……」
「ユメ、こっちだ」
「ひっ……!?」
「カミック、カロック。お前たちはあいつを見ていろ。あくまでも野次馬に徹するんだ」
双子が無言で肯定したのを確認し、シュパーブが強引に手を引く。一気に人混みに消えていった二人は、男の視線から外れるべく、喧噪とは無縁の裏路地へと駆け込んでいった。
「はぁ、はぁ……」
息を切らして、路地を走る。なぜ探していたかは分からなかったが、ろくでもないことには変わりない。シュパーブと夢の直感は共通していた。ゴミに躓いて転びそうになるが、それでも走るのを止めない。二人はいつしか、路地の更に奥へと行き着いていた。
「こんなところだろう。大丈夫か、ユメ」
「……はい、とても、疲れました」
座り込み、全力で肺に酸素を取り込もうとする。不気味なくらい音がしないことに、シュパーブは追っ手を撒いたと確信した。ユメの隣に座ると、彼女の手を握り、大きくため息を吐く。
「しかしどうしてまた、転移者なんか追ってるんだ」
「魔力が、どうとか、言ってませんでした?」
「呼吸を整えろ。そうだな。転移者は魔力を持っている思い込みがあるのかもしれない」
「私、何度も言いますけど、魔法なんて使えません! なんで私だけ……」
「無茶言うな。私だって、お前がそうだとは思わなかったんだから」
「……そうですよね」
「あれはタイロン家の連中だ。胸についていた紋章を見た。奴ら、ビュートの実権の次は何が欲しいんだ……?」
数分ほど雑談をしても追っ手が来ないことを確認したシュパーブは、夢の手を引いて、慎重に表通りへと戻る。先ほどと違って閑散としており、人混みに隠れることができない。直ぐに裏通りに戻り、路地を縫うようにして馬車まで戻ろうとした。
「シュパーブさん、すみません。巻き込んでしまって……」
「ユメは本当に、何でもないのに謝るよな。今は黙ってついて来い」
息を潜めながら、表通りへの脱出を画策する。すると、小走りで周囲を見回すカミックの姿が見えた。血相を変えて探しており、何か良からぬことが起こったのは明らかだった。
「カミックさ……」
「よせユメ。大きな声を出すな。お前はここに隠れてろ」
シュパーブは夢をゴミ箱の裏に隠すと、何事もなかったかのように路地裏から出る。息を切らして二人を探すカミックの肩を叩くと、彼は大袈裟に後ずさりした。
「なんだ、姐さんか。良かった……」
「私たちを探していたようだが?」
「ユメを連れてきて下さい。カロックは馬車にいます」
「それよりも、追っ手は?」
「……さっきの女を連れて、消えました」
バツが悪そうに俯くカミック。「……そうか」と消え入るような声で、先ほどの光景を思い出したシュパーブ。助かったという安堵が、煮え切らない感情で上書きされていく。夜風が冷たいのは、背中に張り付く汗のせいだけではなかった。
夢の手を握り、馬車に戻る。彼女は道中で顛末を知らされ、歯を食いしばっていた。
「私のせいだ。あの人、凄く怖がっていたのに」
「情が厚いな。ユメ、感傷に浸るのは今日までにしておけ。俺たちは明日から、これ以上やばいことをしなきゃならねえんだ」
「フロー・アクロスを救出しないと、私たちは終わりだ。いや、ビュートが終わる」
シュパーブは目が血走っていた。タイロン家の紋章を思い出す度に、馬車の壁を強く叩く。頭を抱えながら、明日から始まるパレードの立ち回りを思い描く。夜が明けるまでに、固めておく必要があった。




