決意(2)
「さて、ここから本題。先ずカミックくんとカロックくん。君たちは俺についてきてくれ。牢獄に案内する。シュパーブさんは、逃走用の馬車と、もしも計画が成功した時の為の手紙を書いて欲しい」
「……経済がめちゃくちゃになるからか」
「国民が飢えたら都市が死にます。それだけは避けないと。さて、ユメさんだけど、昨日、タイロン家に追われたそうじゃないか」
「……どうしてそれを?」
「連中が探していたんだよ。見当違いの人を連れて行ったようだけどね」
昨日のことだと、直ぐに分かった。ぎゅっと身が縮む。
「じゃあ、私はここから出ない方が良いですか?」
「いや、寧ろ俺たちについて来て欲しい。連中は今日からのパレードで大忙しだ。警備が手薄な牢獄への潜入は、一人でも多い方が良い」
「でも、私が役に立てることなんて……」
「あるんだよ。これを見てくれ」
双子と夢の目線が、モンテロが広げた紙に集中する。そこには牢獄の具体的な地図と、フローが収監されていると思われるバツ印が記載されていた。
「フロー様は、外患誘致罪で逮捕されたんだ。だから、この特別房にいると思う」
「特別房?」
「重犯罪者が入る房だよ。三つしかない」
「じゃあ、探しやすいですね! 三択だし」
「だけど、俺たちでここに入るのは無理なんだ」
「どうしてです?」
「なぜか分からないが、アザレアしか入れないんだ」
「……アザレア? 誰だそれは」
「言い忘れていましたね。アザレアは、タイロン家の政策顧問として入ってきた女です。こいつが入ってきてから、ビュートは何もかもおかしくなった!」
カウンターを拳で叩くモンテロ。その音と大きな声で、二階からアトラが眠い目を擦って降りてきた。彼女はまだ寝間着で、昨夜とは想像もつかない寝ぼけまなこだった。
「うるさい。もう少し声小さく……」
いつものようにモンテロに文句を言おうとしたのも束の間、一行の姿が見えた。作戦会議の途中だったことを悟り、弾かれるように目が覚めた。
「あ、あら、皆様、おはようございますぅ、おほほ……」
「今更取り繕っても遅いぞ。まぁいいや。アザレアが入ってから、全部があいつの思い通りになっている気がするんだ。金をばら撒くようになってから、国民もおかしくなり始めたし」
夫の言葉を聞いて、アトラも表情が暗くなる。アザレアの一連のことを聞いていた夢は、指を顎に当てて考え込み始めた。何かが引っ掛かるようで、時折「うーん……」と唸っている。
「どうした、ユメ」
「いや、さっき紋章を、毒抜きしたって言ったじゃないですか。アトラさん、それって、魔法を解く感じですか?」
「はい。微力ですが、私がやりました。それが何か?」
「私、前いた街で転移者とやり合ったんです。その時もかなり強い魔法使ってて……」
「ユメ、何を言いたいんだ」
「アザレアさんも、転移者なんじゃないかなって。まだお会いしたことも無いので、分かりませんけど」
頭を掻いて、自信なさげに周囲の大人を見る夢だったが、当の大人たちは興味深げに彼女のことを覗いている。
「確かに、転移者は強い魔力を持っているな」
「まぁ、私はそんなもの無いんですけどね……」
「そうなんですよ。会ってから全然、魔力を感じませんでしたから」
「ほら、アトラさんが言うなら間違いないじゃないですか」
モンテロは疑問が確信に変わった。バツ印と夢を交互に見て、突破口を探る。
「これは俺の仮説なんですけど、あの特別房がアザレアしか出入りできないってことは、女性しか入れないんじゃないかってことなんです。或いは、転移者しか入れないか」
「それは間違いないな? もし間違っていたら、うちのユメを危険に晒すことになるわけだが」
シュパーブの目が、モンテロを冷たく射抜く。その言葉に、夢は少しだけ救われたような気がした。
「……まだ確証は得られていませんけど、俺や他の憲兵が入ろうとしたら、見えない壁みたいなものに阻まれたんです。それをアザレアが入った時は、すんなり受け入れた。絶対何かある」
「というかモンテロ。アザレアとやらが房に入ったのをよく見られたな」
「職権乱用ってやつです。特別房の手前までなら俺たちでも入れますから」
「でもさ、ユメはどうやってここまで連れて行けば良いんだ?」
カミックが横から質問する。それに対しても答えはあったようで、ボロボロの衣装を用意した。
「本当はシュパーブさんにやって貰う予定だったけど、ユメにお願いするよ。これに着替えてくれ」
「……どうしてですか?」
「罪人として収監して貰う。潜入して状況を知るには、それしかない」
「……はぁ!?」
これまでで一番大きい声が、バーに響いた。すると、二階からスラヴィアが降りてきた。安眠を妨害された彼女の目は輝きが失われており、全身に冷気を纏っている。
「あ、起きたの、スラヴィア……」
「うるさい。だまれ」
「はい、ごめんなさい」
「こんどうるさくしたら、ころす」
再び二階へ上がる。ドアが荒々しく閉められると、夢は再びモンテロに視線を移す。食ってかかりたかったが、スラヴィアに殺されるのだけは御免だった。身体の震えは、スラヴィアのせいだけではなかった。




