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暴騰(2)

「あれは何ですか?」

「ユメは何もかも初めてだからな。あれは、罪人を運ぶ馬車だ。ここは金が溢れる都だ。犯罪も多い」


 夢はボロ布を着せられた犯罪者を目で追う。さながら市中引き回しの刑だったが、最後の車列にいた女性に、彼女の目が留まった。歯を食いしばり、屈辱に耐える、若い女性だった。シュパーブの袖を引っ張り、注目させる。


「あの女性、見えますか? なんだか変なんです」

「何がだ……っ!?」


 女性に目を向けたシュパーブは、開いた口が塞がらなかった。近くにいた王都の民に掴みかかる。


「おい! これはどういうことだ!」

「なんだよいきなり! あんた誰だ!」

「あぁ、すまない……。ヴィヴァーロから来た商人だが」

「びっくりさせるなよ……。で、何か用?」

「なんでこの馬車に、フロー・アクロスが乗っている」

「あぁ、あれか。良い気分だぜ」


 市民がヘラヘラと笑いながら、馬車に視線を投げる。フローと呼ばれた女は、シュパーブと目が合ったが、弾かれたように顔を背けた。そして二度と目線を合わせようとはせず、馬車は雑踏の中へと消えていった。


「……何が言いたい」

「タイロン家は、アクロス家のクソどもには考えつかない素晴らしいことをなさったんだよ! お陰で俺には仕事があるし、金も湯水のように手に入る!」


 男の瞳は燦燦としていた。しかし、焦点は合っておらず、心ここにあらずといった感じだった。見かねたシュパーブが男の胸倉を掴む。


「クソどもだと? 口が過ぎるぞ。どういうことか説明して貰おうか!」

「なんだこいつ。俺は事実を言っているだけだが?」

「シュパーブさん、止めましょうよ! こんなところで喧嘩しないで!」


 夢が必死に制止する。シュパーブの歯ぎしりする音が聞こえてきそうなほど、硬く食いしばっていた。しかし、硬い軍靴の音によって、均衡は崩れた。


「そこまでだ。お前たち、何をしている」

「ちっ、憲兵か……」


 憲兵が視界に入った市民が、唾を吐いて逃げていく。夢はいよいよ逮捕されると感じ、自然と後ずさりしていく。どうか見逃して欲しいと心の中で手を合わせて祈っているが、シュパーブは目を丸くするばかりだった。


「……まさか」


 緊張感で汗が引かないシュパーブだったが、憲兵の顔を見て、懐かしげに笑った。


「モンテロじゃないか。助かったよ」

「シュパーブさん、お久しぶりです。ビュートへようこそ」


 モンテロと呼ばれた憲兵は、シュパーブに向かって一礼した。胸には、アクロス家の紋章が光っていた。夢が呆気に取られていると、グンは背筋を伸ばし、彼女に向き合う。


「新入りかい? 俺はモンテロ・グン兵長。シュパーブさんとは旧知の仲でね。妻と娘も世話になっているんだ」

「あ、ああ。よろしく、お願いします……。ユメ・サクラです、はい」

「転移者か。てっきり魔法でも使えるかと思ったけど」

「よく言われますぅ……。私、魔法とかそういうの全く使えないんですよぉ……」

「そうか。シュパーブさんが連れているなら、俺は信じたいけどね」


 モンテロは馬車が進んだ方を恨めしく見つめていた。夕方を告げる鐘が鳴ると、背筋が再び伸びる。


「すみません、シュパーブさん。そろそろ戻ります。俺ならいつもの『あのバー』にいますから。何か分からないことがあったら、夜に来てください」

「……分からないことしかないよ。ありがとう。また夜に」


 力なく手を振るシュパーブは、アクロス家の紋章を誇示するように歩くモンテロを見送った。ようやく一難去ったが、夢はまだ分からないことがあるようだった。


「スラヴィアさん、何処行ったんですか?」

「お前が露店に行って直ぐに、馬車に引っ込んだ。『くさい!』って連呼していたよ」

「ビュートに入る前も、そんなこと喚いてましたよね」

「……そうだな」


 シュパーブの顔が再び険しくなる。あの時も、自分を守るように馬車の中へ逃げていった。


 ――くさいったらくさいの!


 あの時のスラヴィアの悲鳴が反芻する。検問所の兵士といい、この街は何かがおかしい。しかし、疲れた頭では正常に思考ができなかった。


「……とりあえず馬車に入ろう」

「分かりました」


 燃えるような夕陽に照らされ、二人は馬車の中へと消えていった。


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