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商隊ム!―不本意な転移JKの命懸け魔石紀行―  作者:
ヴィヴァーロの試練
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魔石(2)

「散々僕を無視して、邪魔して、タダで済むと思うなよ?」


 詠唱もせず、夢に魔法の弾を放つ。ボウリングのピンのように吹き飛ばされるが、アクトはとどめを差す為に、マウントを取る。


「あ、うぅ……」

「とっとと死ね! このモブがよぉ!」


 魔法で手が真っ黒に染まる。意識が遠のく夢だったが、最後の力を振り絞り、アクトの首を掴む。


「離せよ、モブ。お前もう死ぬんだよ?」

「私、は……。私、はぁ!」

「なんだよ……、っ!?」


 アクトは夢の手を離そうとするが、糊でくっついたかのように離れない。戸惑う彼とは対照的に、力が入る夢。至近距離から魔法を撃とうとした。


「うっ……!?」


 夢の爪が、アクトの首に食い込む。痛みで集中力が切れ、彼の手に集まった魔力が収束した。狂気じみた執念に、久しく感じていなかった恐怖がせり上がる。夢は自分の全体重を乗せ、馬乗りになった。手は離れず、爪が食い込むほど首を絞めている。


「絶対に、日本に、帰ってやるんだあぁぁっ!!」

「が、なっ……?」


 姿勢を崩したアクトの魔法が、虚空に撃ち出される。夢は歯を食いしばって、足搔くことしかできない男を見下ろしていた。


「ぐ、あっ、があっ……!」


 突然、アクトの胸元がどす黒く光る。禍々しい渦が出現し、どんどん大きくなっていく。


「サクラ! 離れろ!」


 夢は手を離し、バイパーの元へ駆け寄る。のたうち回る転移者を見て、民衆はあまりの異様さに逃げ出す者もいた。黒い渦が消えると、胸元から何かがせり上がってくるのが見えた。


「ありゃなんだ?」

「私も分からん。サクラ、あれに見覚えは?」

「……これだ。見つけた!」


 どす黒い光が消えると、泡を噴いて気絶するアクトがいた。彼の横には、握り拳大の大きさの黒い石。夢は痛む身体に鞭を打ち、大事そうにそれ――日本へ帰る為の命綱を抱き締める。周囲に似つかわしくない冷たさが身にしみるが、生々しいほど魔法が拍動していた。


「魔石だ!」


 夢が喜びに叫ぶ姿を見て、バイパーは溜め息を吐いた。


「魔法の力も無いのに、やりやがった……」

「そんなこと言ってる場合か! 民衆を避難させるんだ!」

「あぁ、そうだったな。皆さん、私たちはヴィクトリス商会の者です! 今すぐここから離れて!」


 残り少なくなった民衆も、バイパー達によって退避させられる。商店街に静寂が訪れるが、夢はまだ煮え切らなかった。意識を取り戻したアクトの元に歩くと、彼を無理矢理起こす。


「ん、あ?」

「二度とそのツラ見せるな」


 魔石を持つ手で、アクトを殴る。細い身体は無情に飛ばされ、石畳に打ち付けられた。


「はぁ、疲れたぁ……」


 ひりつく手を撫でながら、覚束ない足でコマの元へ向かう。彼女はまだ眠っており、ローブが膝枕をして保護していた。すると、ヴァーソが青ざめた顔で走ってきた。


「転移者が出たと聞いたぞ! コマは大丈夫なのか!?」

「落ち着いて下さい、ヴァーソ様。魔法にかかりましたが、サクラが解いてくれたんです」


 コマを抱きしめるヴァーソ。その感触で、ゆっくりと目が開く。


「お父、様……?」

「コマ! 無事だったか? というかなんだその頬は! 腫れ上がっているぞ!」

「あー、これはですねぇ……」


 夢は気まずそうにヴァーソと再会すると、いきなり土下座した。


「申し訳、ありませんでしたあぁ!」

「……は?」

「魔法から解く為に、一発殴ってしまいましたああ!」


 夢の間抜けな叫びが、商店街にこだまする。呆気に取られていたヴァーソだったが、直ぐに顔を起こした。


「魔法も使えないのに、コマを解放してくれたのか。やはり私の目は正しかった。ありがとう」

「……はい!」

「お父様……? ユメさん……?」

「コマさん! 気が付いた!」

「あの男は?」

「そいつなら、サクラが倒してくれましたよ」

「いえ、ローブさんがいなかったら、私、死んでましたし……」


 言葉が終わる前に、夢はその場に倒れた。脚が震え、右手は殴った反動で皮が剥け、痛みが疼いている。バイパーは夢を背負い、一行と共にヴィクトリス商会へと向かった。


 商会の門前では、シュパーブが待っていた。傷だらけの夢を見て、彼女は慌てて駆け寄る。


「どうした、ユメ。傷だらけで」

「転移者にボコボコにされまして……。皆さんの助けもあって、追っ払えましたけど」

「そうか……。なら良かった。ところで、この黒い石は?」

「魔石です。これが四つあれば、私は帰れます」


 シュパーブは「そうか」と一言告げると、バイパーから夢を受け取る。


「シュパーブさん、私、重いですよ?」

「このくらいどうってことない。馬車に戻るぞ」

「え? コマさんたちは?」

「明日も会えるだろう。事情は私から説明するから」

「怪我が酷いなら、明日は休んで良いからな。今日は本当にありがとう」


 シュパーブは軽々と夢を背負い、馬車まで運ぶ。夕日に照らされる二人に、コマは最敬礼して見送った。


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