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商隊ム!―不本意な転移JKの命懸け魔石紀行―  作者:
ヴィヴァーロの試練
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悪夢(4)

 診療所から出る。両手で抱えていた貼り紙は、全て無くなっていた。解放感に大きく伸びをすると、バイパーと合流した。


「お疲れ様です」

「よし、終わったな。お嬢様と合流しよう」

「はい!」


 夢の横で、バイパーの肩の力が抜けたのが分かった。二人で並んで歩いていると、商店街に到着した。


「あの黒パンが売っている店で合流するはずなんだが……」

「あ、いました!」


 夢が美味しそうにパンを頬張るコマを見つけると、小走りで合流した。ローブへの簡潔な報告を終えたバイパーだったが、その視線は依然として険しい。


「気付いたか?」

「何の事だ。相変わらずサクラからは魔力を全く感じないぞ」

「そいつじゃない。なんか感じるんだよ。分からないのか?」

「……ああ、ようやく感じ取れた」


 じりじりと近付いてくる、禍々しい魔力。二人は臨戦態勢とばかりに短剣を取り出すと、商店街の奥から悲鳴がした。周囲の人間が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。肩がぶつかり、もみくちゃにされるが、夢は必死にコマの手を掴んでいた。平和な光景が一瞬にして崩れ去り、コマたちは大人に守られる。


「何があったんですか!」

「分かりません。おい、向こうで何があったんだ」

「転移者がいるんだ! ほら、あそこ!」


 通行人が指を差す先には、地元のごろつきを片手で持ち上げ、地面に叩きつける黒髪の男がいた。石畳が割れそうな音が響くと、バイパーが歯を食いしばり、コマを後ろに隠す。


「あいつだ……」

「え? バイパー、今なんて……?」

「お嬢様を連れて逃げるぞ!」


 表情が凍りつくバイパー。ローブは直ぐにコマを確保し、逃走を図る。しかし、遅かった。


「コマちゃん、ただいま。やっぱり忘れられないから戻ってきた」


 無個性な黒髪の男は、ごろつきを一瞥することなくコマの元へ寄ってくる。それを見た彼女は、汚物を見たような悲鳴をあげた。


「い、いや! 来ないで!」

「なんでそんなに拒絶するの、コマちゃん。僕はいつでも本気なんだよ?」

「これ以上お嬢様に近付くな!」


 ローブが短剣を握り締め、男へ突進していく。しかし、素手で短剣を弾かれてしまう。


「なに……?」


戸惑う暇もなく、目視できない速さで飛んできた拳が、彼女の腹にめり込む。内臓が潰れそうな勢いで石畳に叩きつけられ、何度もむせ込んでいた。


「おかしいな……。10%も力を出してないのに。モブキャラだからこんなもんか」


 飄々としている男。恐怖で凍りつくコマには、逃げる以外の選択肢はなかったが、脚が思い通りにいかない。


 夢は青ざめていた。自分と同じ黒髪の転移者が現れたと思ったら、コマに危害を加えようとしている。血を吐くローブを見て、爪が食い込むほどに拳を握る。あいつはこの世界をゲームか何かと思っていないか? 自然と怒りがこみ上げ、義憤が彼女を突き動かした。


「……ちょっと」

「あ、おい! 危険だぞ! そいつから離れろ!」


夢の足がゆっくりと動く。唇を強く噛み締め、恐怖を痛みで上書きする。バイパーの叫び声は、もはや彼女には届いていなかった。だが、男は微動だにせず、それどころか、夢を新しいおもちゃが与えられたかのように物珍しそうに見るだけだった。


「あ、日本人だ。この世界で見たのは久し振りだな。どんなスキルを持ってるのかな? 今鑑定してあげるから」

「……鑑定? お嬢様を篭絡した時にも言っていたやつだ! 危ないサクラ!」


 「鑑定」の恐怖を知っているバイパーは青ざめた。洗脳の合図であるそれを、夢にまで浴びせるわけにはいかない。彼は叫んだが、それに反して、夢は男を見上げる。


「消えろ」

「……は?」


 低い声で威圧する。しかし、男は動じるどころか、やれやれと言わんばかりに肩をすくめて笑った。


「そこどいてよ。貧乳に興味はないんだ。ここに来るまで女の子と一緒にいたけど、皆コマちゃんみたいな身体してたんだよね」

「皆……?」

「うん。王都とか、雪の都とかにいる子たちね。僕は別に何かしたってわけじゃないけど、なぜか好きになってくれるんだよね。そんなつもりはないんだけどね」

「そうか。そんなつもりはなかった、か……」


 夢は言葉を切ると、鬼の形相で男の頬を一発殴った。肉を叩く鈍い音が、夢の脳内で反響する。あまりにも突然の一撃に、バイパーは言葉を失った。男の不健康に白い頬が若干赤みを帯びるが、彼は依然として立っていた。


「ごめんなさい。私、おしとやかなんで。殴るつもりなんてなかったんだけどねー」


 拳が腫れ上がるような痛みに耐えながら、必死に平静を装う夢。男は頬を少し払うと、夢に向き直る。そして、ローブにそうしたように、無言で殴り飛ばした。コマの悲鳴が、一層大きくなる。


「ぐっは……」


 夢の身体が、石畳にバウンドした。コマの悲鳴が、一層遠く感じた。


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