悪夢(1)
片付けを終えて帰路につく夢。二人の部下が付いて行くことは変わらなかったが、昨日よりも表情が緩んでいる。作品を大事に抱えるコマと肩が触れると、温もりを感じた。
「今日で最終日だが、ヴァーソ様がどう言うかだな。転移者」
「はい。正直怖いです。私のせいでシュパーブさんとかにも迷惑がかかってしまうので……」
「随分と呑気だな、転移者」
夢の背後から、聞き覚えのある声がした。四人の背中が跳ね、恐る恐る振り返る。そこには腕を組んで睥睨している、ヴァーソがいた。
「ヴァーソ様! 今日は書斎に籠ると仰ったはずでは……?」
「コマのことが心配で見に来たんだ。お前らの報告通りにいってるかどうかもな」
「報告……?」
「仕事が終わってから、お前の様子を報告して貰っていたんだ。やれ『魔力を感じない』だ、やれ『悪意がない』だと言われたんだぞ。信じられるわけがないだろう」
ヴァーソの表情は険しかった。身構える夢に向かって、彼は構わずに話し続ける。
「今日、お前の働いている所を見せて貰ったぞ」
「え……? 何処にいらっしゃったんですか?」
「孤児院の外だ。窓から丸見えだったぞ」
ヴァーソがため息をつくと、コマに目を向ける。
「これが、子どもたちと作っていたものか。私に見せなさい」
「……はい」
コマが震える手で羊皮紙を渡す。ヴァーソの手に渡った直後、彼の眼前には、子どもたちと一緒に作ったちぎり絵が広がっていた。
「これは……」
「昨日からずっと、温めていた計画でした。私一人の力では、ここまでできませんでした。コマさんは、これを見た後に……」
「泣いていたな。見ていたよ」
「では、その後に言った言葉を知っていますか?」
「なんだ」
「『この絵みたいな、笑顔が似合う女になります』って言ったんです。私は、コマさんを笑顔にしたいんです。黒髪だし、この世界では新参者ですが、私は本気です」
「本気、か……。俺は『本気でやります』とか『真面目にやります』と言う奴は好きじゃない。それは物事をやる上での前提条件だからだ」
「お父様! そんなこと言わないで下さい!」
「話を最後まで聞きなさい、コマ。でも転移者。俺はお前に賭けてみたくなった」
夢は口が半開きになっており、ヴァーソの言葉を反芻する。
「お前はコマを笑顔にした。それは紛れもない事実だ。今度は街に出て、コマと一緒に仕事をして貰おう。勿論、監視はつける」
「え? それって……」
「シュパーブには伝えておく。せいぜいへたばらないことだな」
「……ありがとうございます!」
ちぎり絵を持って踵を返すヴァーソに向かって、最敬礼する夢。顔を上げると、柔らかい笑顔でコマが小さく拍手をしていた。
「お父様ったら、素直じゃないのは相変わらずですね。さてユメさん、明日からも頑張りましょう!」
「はい!」
コマの顔は、この一年で一番輝いていた。




