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商隊ム!―不本意な転移JKの命懸け魔石紀行―  作者:
ヴィヴァーロの試練
12/14

奉仕(3)

 その日の夕方、質素な夕食を摂った夢。腹は減っているはずなのに、疲れで喉を通らなかったが、どうにか飲み下した。


「ごちそうさまでした」


 誰にも聞こえない言葉。馬車の中は、未だに昼の大成功で浮かれていた。


「いやあ、しかしここ数日、良いことばかりだな兄貴」

「道で襲われないし、商談は簡単に成立するし。転移者拾ってから風向きが変わった気がするよ」

「もしかしてこいつは幸運の置物なんじゃないか?」

「よせ、カロック。たまたまだよ」


 喧しく談笑する双子を尻目に、シュパーブは小さな麻袋から、黒い塊を取り出した。二、三個出てきたそれは、皮が所々剥けており、無骨な外見だった。


「シュパーブさん、これ何ですか?」

「ユメか。これは粘り石だよ」

「粘り石……? 野菜ですよね? これ」

「名前はあれだが、立派な根菜だ。蒸かしたら甘みが出て美味いんだぞ」


 見た目はジャガイモに似ていたが、石炭のように無骨なそれを、夢は食い入るように見つめていた。饒舌に話していたシュパーブだったが、残念そうに肩を落とした。


「でもここまで表面が傷ついていたら、売り物にはできないな。捨て値で買ったとはいえ」

「勿体ないですね……」

「スラヴィアに保存して貰うにも限度があるし、これじゃあ、糊にするしか使い道ないな。まぁいいや。仕事で使うし」

「糊……。澱粉糊ですか?」

「知っているのか。こいつは粘り気が強いから、ダメになったら糊にするんだよ」


 シュパーブが豆知識を披露すると、夢の脳内が急速に回転し始めた。遊び、色紙、コマ、糊、笑顔……。パズルのピースが全て埋まった時、彼女は電撃が走ったかのように背筋が伸びた。


「これだ!」


 馬車いっぱいに声が響く。双子は怪訝な目で見ており、安眠を妨害されたスラヴィアは今にも殺しそうな目で睨んでいた。


「すみません、つい……」

「それで何をするつもりだ。時と場合によっては……」

「よせカミック。話だけでも聞いてやろうじゃないか」


 シュパーブがナイフを取り出そうとするカミックと、食って掛かりそうなスラヴィアを制止する。息を整えた夢は、いきなりシュパーブに向かって頭を下げた。


「これで、糊を作らせて下さい! お願いします!」

「だから、何をするつもりなんだ」

「明後日、私が孤児院の子どもに遊びを提供しなければならないんです。それに使います」

「え? 遊ぶの? スーもやりたい!」


 スラヴィアの機嫌は直ったが、カミックは未だに怪しんでいる。ナイフを懐に入れこそしたが、腕を組んで値踏みするように見つめるのは変わらない。


「遊びって、具体的には?」

「コマさんの、『笑顔』を作ります」

「全然具体的じゃねえんだけど……。コマさんを笑わせるってことか」

「そんなところです。それには糊が絶対に必要なんです!」

「確かに工作するには糊は必須だが……、作り方は分かるのか?」


 カロックの挑戦的な目線と現実的な問いに、夢は先ほどまでの勢いを失い、肩をすくめた。


「……申し訳ありません。私だけでは作れないので、誰か一緒についてくれませんか?」


 大人たちの視線が一斉に注がれるが、それに気圧されることなく、言葉を繋いだ。


「見張られると私は下手な真似をできないですし、もし糊が余ったら、皆さんで使ってください。お願いします!」


 必死に頭を下げる夢に、シュパーブが興味深げに目を細めた。


「良い考えじゃないか。カロック。お前がやれ」


 唐突に指名されたカロックは、開いた口が塞がらなかった。


「どうして! 俺じゃなくても良いじゃないですか! それこそ、ヴァーソさんの部下とかにやらせたら良い」

「こう見えて、こいつは器用なんだ。糊を作ることなど造作もない。妙なことをしたら首を刎ねても良い。それで良いな? ユメ」

「はい。お願いします」

「……本当に妙なことしないだろうな?」


 疑念を隠そうともしないカロックだったが、夢の信念は変わらなかった。言葉の代わりに、直ぐに無言で首を縦に振る。


「……ちっ。分かったよ」

「ありがとうございます!」

「決まりだな。スラヴィア。こいつを冷やしておいてくれ。今日はもう遅いから、明日作ろう」

「わかった」


 スラヴィアは服をめくり、雛鳥を守るように粘り石を冷やす。そして、冷気を絶やさず眠りについた。


「転移者。お前の考えることがわからねえ。縋りついてきたと思えば、今度は自分では何もできないと言いやがる。お前ら転移者は、神様みたいな力を持っている奴らばかりだと思っていたんだが」

「私には、何も無いんです。だから、皆様の力が必要なんです」


 一先ず緊急事態を乗り越えた夢だったが、最大の壁が残っている。それを成し遂げる為に、頭の中で予行演習を繰り返しながら、スラヴィアの横で静かに眠った。



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