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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第二卷: 煉気編一初めて世間に·血色禁地
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韓立VS陸師兄(3)

 


 韓立と陸師兄は、法力ほうりきを「剣符けんぷ」と「青蛟旗せいこうき」へと絶え間なく注ぎ込み、全精神をその操縦と互いの攻防に注いでいた。ほんの少しの油断や手抜かりも許されない。


 だがそうなると、当然ながら余分な心の力も法力も残っておらず、他の手段で敵を打ち負かすことは不可能だった。どちらかが少しでも気を抜けば、即座に宝は砕け、命も失い、取り返しのつかない事態になることを、二人は痛いほど理解していた。


 こうして、青蛟と巨剣きょけんが互いに光を競い合う中、韓立と「陸師兄」の争いは、どちらが先に法力を使い果たすかという消耗戦へと変貌していった。


 二人が残存法力の多寡こそが勝敗の鍵だと気づいた時、彼らは期せずして同じ方法を選んだ。それぞれ霊石れいせきを取り出し、手に握りしめて、自身の霊力れいりょくの流失を補おうとしたのだ。


 ただ、陸師兄が握ったのは低階ていかい風属性かぜぞくせい霊石。一方、韓立が手にしたのは中階ちゅうかい土属性つちぞくせい霊石だった。この事実は、韓立の対面に立つ陸師兄の顔色を一瞬にして険しく変えさせ、驚愕と怒りで歪ませた。


 韓立のような煉気期れんききの弟子が、門内でも築基期ちくきき以上の修仙者でなければ手に入らない中階霊石を所持しているとは、彼の予想を完全に超えていた。誰もが知る通り、中階霊石は低階霊石に比べて霊力の回復速度が遥かに速い。これでは霊力補充の面で、彼は大きく不利を強いられることになる。


 しかし「陸師兄」は考え直した。そもそも自分の法力は相手より遥かに深いはずだ。たとえ相手の霊石の回復が少し速くとも、それで長く持ちこたえられるわけがない。このわずかな霊力の補充と、刻一刻と続く法力の消耗を比べれば、前者など取るに足らないものに過ぎない。


 そう考えた「陸師兄」は再び冷静さを取り戻し、精神を集中した。


 だが、韓立の次の行動が彼の視界に飛び込んだ時、陸師兄の表情はまたしても変わり、一抹の呆然ぼうぜんと信じがたい気持ちが浮かんだ。


 韓立は「陸師兄」の目前で、自ら身にまとっていた青い防御障壁プロテクションを解除し、真っ向から自らの身を「陸師兄」の前に晒したのだ。


「陸師兄」はどれほど聡明そうめいであろうと、相手の行動に心底混乱させられ、韓立が一体何を企んでいるのか見当もつかなかった。


 風刃ふうじんを一発放てば、簡単に彼の命を奪えるというのに、恐れないのか?


 陸師兄の脳裏で考えが幾度も巡ったが、躊躇ちゅうちょは長く続かなかった。彼は左腕を伸ばし、虚空へと素早く手を動かした。淡い青色の風刃が形を成そうとしていた。


 しかし「陸師兄」がこの風刃を完全に凝結ぎょうけつさせ、対面へ放つより前に、空中で青蛟と死闘を繰り広げていた巨剣が突如として光芒こうぼうを増大させた。風刃に気を取られている隙を突き、猛然と青蛟を振り切り、「陸師兄」本人めがけて飛び射ってきたのだ。


 この一撃に陸師兄は肝を冷やし、恐怖に駆られた。もし風刃を完成させて放てば、おそらく韓立の命は奪えるだろう。しかし同時に、巨剣の斬撃ざんげきの前では、自分も確実に命を落とす。双方が相討ち(あいうち)となるに違いない。


 確かに彼の眼前には、消えずに残っている風壁ふうへきが一つある。だが、青蛟旗が化した青蛟と互角に渡り合えるこの巨剣ならば、竜巻など軽く一突きで粉砕されるだろう。ほんの一瞬たりとも足止めすることはできない。


 こんな結末は、決して「陸師兄」の望むところではなかった。彼にはまだ遠大な前途、輝かしい未来がある。この人里離れた荒れ山で、正体すら定かでない相手と一緒に葬られるのは御免だった。


 そう思うと、彼は深く考える暇もなく、左手を震わせて風刃を消し去り、全身の法力ほうりきを青蛟旗へと猛然と注ぎ込んだ。青蛟を呼び戻すためだ。


 青蛟は流石さすがに風属性宝具の化した精霊せいれい。陸師兄の全力の操縦により、後発でありながら先んじ、途中で韓立の巨剣を迎え撃ち、再び激しい争いを始めた。


 この光景を見て、「陸師兄」は安堵あんどの息を吐き、全身に冷や汗をかいた。


 その後しばらくの間、陸師兄は何度か他の術法を試み、韓立を奇襲きしゅうしようとした。


 だが、その度に韓立は同じ手口で、強引に彼を押し返した。防御障壁を解いた韓立に対して、陸師兄は依然として何の手も打てず、やりきれない思いでいっぱいだった。彼は己の法力の深さを頼りに、相手と少しずつ消耗し合うしかなかった。


 一方の韓立は、この頃から収納袋から、様々な形をした小さな草や根茎こんけいなどを取り出し、口へと放り込み、大口で咀嚼そしゃくし始めた。その様子を見た陸師兄は呆気あっけに取られ、相手がまたもや何を企んでいるのか皆目かいもく見当がつかなかった。


 相手の意図が読めず、まるで五里霧中ごりむちゅうの状況は、陸師兄に強い不吉な予感を抱かせた。しかし、己の命をあまりにも惜しむ彼は、どれほど謀略に長けていようと、この時ばかりは打つ手がなかった。


 時間が経過するにつれ、陸師兄の心は次第に重く沈んでいった。


 ついに、青蛟の体の青光せいこうが薄れ始め、巨剣の灰色の光芒こうぼうが相変わらず眩いほど輝き続けているのを見て、陸師兄はもはや恐怖を抑えきれず、金切り声を上げた。


「ありえない! 俺の法力はお前より遥かに深いはずだ! 中階霊石で補充しているとはいえ、お前が今なお余力を持っているはずがない! 俺より先に法力を使い果たすべきなのに!」


 青蛟が今にも崩れ落ちそうになる中、陸師兄の絶叫は、罠に落ちた狂犬の最後の遠吠えのようで、強烈な無念がにじんでいた。


 韓立は自らの企てが、少しずつ全て実現しているのを見て、思わず顔をほころばせた。しかし相手の言葉を聞くと、口元がわずかに歪み、微笑みは冷笑へと変わった。


 彼に死にゆく相手に、このすべてを説明する暇などない。一刻も早く始末することが最優先だ。自分の法力も実は底を尽きかけているのだから、相手と無駄口を叩いている場合ではない。


 そう考えた韓立は、相手の疑問など全く意に介さず、指を差し伸べた。巨剣はさらに光芒を増し、青蛟を少しずつ削り、磨耗まもうさせていった。ついには丈許(約3メートル)ほどの長さに縮み、体の青光はほとんど見えなくなるほどに薄れてしまった。


「陸師兄」はこれを見て、完全に絶望した。同時に死を賭す決意が湧き上がり、目に狂気じみた光が宿り始めた。


 彼は一言も発せず、青蛟旗に残されたわずかな法力ほうりきを猛然と引き戻した。青蛟旗は刹那せつなに原形を現し、空中からまっすぐ落下した。そして、自分めがけて斬りかかってくる巨剣には一切構わず、その法力で巨大な風刃ふうじんを素早く凝結ぎょうけつさせると、躊躇ちゅうちょなく韓立めがけて強烈に放った。


 これを見た韓立は心中で警戒を強めた。相手の風刃が放たれると同時に、巨剣を操り相手の頭頂めがけて真っ直ぐ斬り下ろさせた。そして結果を見る間もなく、身体を猛然と躍らせ、数丈(約10メートル)も離れた場所へと飛び出した。


 幾度かの攻防を経て、韓立は風刃の速度が驚異的であることを深く知っていた。「羅煙歩らえんほ」を発動し急いで避けなければ、何の防御もない彼は、不意を突かれて真っ二つに斬られかねない。それでは死んでも死にきれない。


 風刃は確かに非常に速かった。韓立が飛び出したその瞬間、彼が元々立っていた地点へと到達した。しかし、風刃はそのまま軌道を変え、韓立が逃げた方向へと尾行びこうするかのように、再び激しく飛射してきた。


 韓立は深く考える暇もなく、「羅煙歩」を極限まで発揮した。この狭い一帯で、左右に小刻みに方向を変え続け、かすかに複数の幻影げんえいすら生み出した。風刃はまるで尻尾のように彼の後を追跡ついせきするが、急なカーブに追いつけず、翻弄ほんろうされた。


 韓立はよく理解していた。直線で逃げれば、風刃の急速な斬撃ざんげきには到底勝てない。小回りの利く身のこなしの技だけが、一時的に難を逃れる可能性を秘めている。これこそが、彼が最初から防御法術を放棄する勇気を持てた主な理由だった。


「ブシュッ」という音がして、風刃は突如制御を失い、まっすぐ斜め下の地面へと突き刺さった。深い溝を切り裂いた後、消え失せた。


 韓立は長い息を吐いた。やっと、喉元まで上がっていた心臓を元に戻せた。俗世の軽功身法けいこうしんぽうで修仙者の法術攻撃をかわすとは、実に命がけの行為だった。


 韓立は地面にどさりと腰を下ろし、顔を上げて対面を見た。


 そこには、風壁ふうへきが消え失せていた。その背後にいた「陸師兄」は、真っ二つに斬られ、真っ直ぐに倒れ伏し、微動だにしていなかった。二つに分かれた屍骸しかいの上で、巨剣が淡い灰色の光芒を放ちながら漂っていた。ただ、その光はかすかで、力尽きているように見えた。


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