第二話 多摩市某所
独立行政法人西都大学病院、岸研究室。ここの主である岸教授は脳神経外科の権威であり、特に頚髄損傷の再接合手術においては右に出るのはなく、多くの患者が救われている。
しかし、彼の腕が超一流と言っても、切断された頚髄の再接合となるとかなり条件の良い事例でしか成功はしないし、繋がったといっても完全に繋がることは稀で、ある程度の障害が残ってしまうほうが多かった。
岸はこの状況を満足していなかった。岸には脊髄神経の一本一本が手に取るようにわかり、機能的にはすべての神経を接合しているはずなのである。しかし、生体というものはそう都合よく回復してはくれなく、接合する神経線維と接合しない神経線維が発生してしまう。
いくら名声を手にしても、納得のいく結果が得られない現状に満足できない岸は、臨床から少し離れて研究を始めたのだった。
民間の西草電気との共同研究という形で神経と電気信号の接合研究に取り組んだ。
西草電気の開発した電位センサーを使うと神経信号を電気信号に、電気信号を神経信号にほぼ100%変換可能であるところまで達成していた。
この技術を用いれば、神経―電気―神経とつないで100%近い接合は可能ではあるが、残念ながらセンサーと変換機構のユニットが小型化できず、体内に留置可能なサイズにはならないため臨床には至らないでいた。
しかし、そんなことであきらめる岸ではなかった。直接、脳の運動野や感覚野に電極を埋め込み、行動思考を電気信号化して読み取り、コンピューターに入力してアクチュエーターを動かす仕組みを考えた。
猫型のロボットの頭部に猿の頭をつけて動かして見せるところまで研究は進んだ。猿が思った通りにロボットは動いていた。
頭は生体のままであるため、人工で製作できない目や耳は直接脳につながっているし、嗅覚や味覚もそのまま使用できる。人であれば発声も可能になる。
だが、これにも乗り越えられない技術障壁があった。頭を生かすためには人工心肺が必要になる。これを小型化するとともに必要な電力の供給を考えなければならなかった。
それでも岸は、この成果を学会報告したかった。しかし、学内の審査で動物虐待の疑義があるということで発表を許可されなかった。さらに人に対し臨床研究するということは体の機械化を伴うため、人権侵害に該当する可能性ありとくぎを刺されてしまった。
岸は八方ふさがりの状態ではあるが、諦めてはいなかった。使えるボディと使えるシチュエーションが必ずあると考えていた。
それはもう患者を救うためではなく、岸個人の探求心を充足させることだけが目的になってしまっていた。
岸の電話が鳴った。西草電気からだった。
「もしもし、私だが。どうした?人工心肺ができたのか?」
「容積2リットル内に収まる大きさにはなりました。頭だけの維持でしたらこのサイズで可能です。」
「電源は?どれくらい持つ?」
「電池パック1個で4時間です。2パック搭載できますから最大で8時間です。」
「8時間か・・・厳しいな。あとは電源だよりか。」
岸は少し落胆して電話を切った。
「あーっ、無限のエネルギーが欲しい。」
岸はつい叫んでしまった。




