第一話 つくば某所
つくばにある半民半官の先進医療技術研究所の一室で、主任研究員の高島が日夜研究に没頭していた。
彼の研究は二足歩行ロボットの手足に継電素子を組み合わせたロボット義肢の開発であった。しかしここ2年ほどは研究が行き詰った状態で、高島も苦悩の毎日だった。
動かすことは、難しくなかった。しかし、滑らかに動かない。
高島はスポーツが楽しめるようなレベルまで回復できることを目指していた。しかしそのレベルにはまだ遠く及ばない。
皮膚の上から神経電位をセンシングする方法では、情報量に限界がある。さらに左右のバランスをとることが、人間の脳には難しい。筋肉を直接動かす場合は、脳内でうまくバランスを処理できるがロボットのアクチュエーターに対しては個別に指示を出さないと動けない。脳の処理のほうが追いつかなくなる。
さらに感覚が脳に伝わらない問題が解決できていなかった。感圧センサーを埋め込めばコンピューターレベルではフィードバックできるが、足を着いた、物をつかんだという感触を実感することができないため、力の加減がわからず暴走する事故も発生していた。
「もはやここまでなのか。日常生活支援レベルには使えるから、それでよしとしないといけないのか。何が足りないのか。」
高島はホワイトボードに改めて書き始めた。
‘コンピューターで四肢を制御’
「何回書いたことだろう。
体内に埋め込みは技術的にできる。しかし神経をどう繋げるのか?人の意思をコンピューターに伝える手段がない。」
「さらに感圧センサーの信号を脳に伝達することは難しい。」
結局今までできなかったことを羅列していくだけでしかなかった。
「予算も人材も潤沢にあれば違うのかな。それはかなわぬ夢だな。今でもこうして研究できるだけでもありがたいことだ。」
しばらくブツブツと何かをつぶやいていて思い立ったようにホワイトボードに書いた。
‘ボディごと機械に換装’
「さすがにこれはまずいか。医療倫理に引っ掛かる。ロボットと変わらない。」
高島はまた今夜も解答のない課題に頭を悩ませていくことになる。
しかしながら、この2年間高島は無駄に時間を過ごしていたわけでもなかった。アクチュエーターやセンサーの改良を施して、コンピューターレベルの制御であればおよそ3倍の応答速度向上を実現していた。
あとはどうやって使うか。まだしばらく高島には考えていてもらうしかなかった。




