第三話 生存確保
「しかし、実際に戦闘となると殉職者が出てしまうことになりませんか?それこそ、野党や国民にどう説明をつけるのですか?」
陸防幕僚長が頭を抱えて言った。もっともなことである。最前線に立つのは最終的に陸防軍になる。選んだ一個中隊の中から殉職者が出ることは容易に想像できる。
「それはやむを得ないことではある。実戦だからな・・・・」
国防大臣も口が重い。
「私に少し提案があります。」
霧島が割って入った。
「私も殉職者を出さない作戦を考えておりました。
これは、まだ研究段階ではありますが、生命維持カプセル、LSCというものを検討しております。戦場で負傷してもカプセル内の培養液につかり、人工心肺で生命を維持して後方支援部隊まで搬送します。
もちろん、即死の場合は手の施しようはありませんが、命を長らえることは可能になると考えております。」
「それは良い考えだ。実現の可能性はどうなんだ?うまくいけば災害派遣でも使える。」
陸防幕僚長が頭を上げた。
「現時点では動物実験の段階です。およそ6時間の生存が可能です。人に応用した場合を想定しても、3時間以上は維持できると思います。
問題は、カプセルのほうです。小型軽量にしないとお荷物になります。装置の小型化、バッテリーの小型化、長寿命などの課題が山積みです。
しかし、たとえ費用が掛かろうとも人の命には換えられません。我が国は専守防衛です。屍を築いてまで守るのでは意味がないです。国土も国民も失ってはいけません。」
「そのとおりだ。早期の開発を期待するよ。」
国防大臣がねぎらった。
「すいません。ちょっと熱くなってしまいました。」
「大丈夫だ。それくらいの熱意を持って取り組んでくれるほうがありがたい。しかし、実戦は想像しきれない部分もあるから厄介だ。私もそうだが、ここにいるもの全員が実戦の経験はない。想像で話をしているだけだ。そこに落とし穴があったらと思うと恐怖で頭の中がいっぱいになる。杞憂で済めばよいのだが・・・・」
国防大臣は天井を見上げてつぶやいた。
この日の会議はこれで終わった。各自は与えられた課題に対処するために持ち場に戻った。
部屋に戻った岩波陸防幕僚長の表情は硬かった。最前線に立つことになる中隊を選ばないといけない。
30分ほど考えて、朝霞駐屯地の山南司令に電話をし、至急来るように伝えた。ほどなく山南司令は幕僚長室に到着した。
「幕僚長、至急の要件とは何でしょうか?」
山南は部屋に入るなり岩波のデスクの前に立ったままで聞いた。
「山南君、これから話すことには極秘事項だ。聞いてしまえばYESしか答えの選択肢はない。それでも聞くか?」
山南は一瞬たじろいだが、すぐに姿勢を正して答えた。
「もちろん伺います。軍人として当然の責務です。」
岩波幕僚長は山南に先ほどの会議の件を話した。山南の顔がだんだんと硬直していった。
「結論だが、君のところから一個中隊を出してほしい。件のレンジャー中隊が適任だと考えた。」
「あの如月葵中尉の特務隊ですか・・・」
山南は少し間をおいて答えた。
「わかりました。」
山南はまだ立ったままであったが、膝がわずかに震えていた。
そのまま数分の静寂が続いた。
「では、失礼します。」
そう言って山南は帰路についた。
陸防軍練馬駐屯地特殊攻撃大隊所属
第一特務隊中隊長 如月葵中尉




