第一話 レーダー基地建設
霧島たちのプロジェクトが進まなくても、通常国防予算で承認された日入島のレーダー基地建設は進めなければならなかった。中里もやむなしと、判断した。
周辺海域を海防軍が警戒する中、陸防軍の手で建設が始まった。
キーナ国は当然のように外交ルートを通じて抗議声明を出し、毎日のように領空を侵犯して偵察飛行を仕掛けてきた。その都度那覇基地からF-15がスクランブル発進し、警告を出す。
日本政府の対応は従来通りに、日入島は日本固有の領土であり基地建設は問題ないとの主張を繰り返すのみであった。
アメリカ軍は静観を決め込み、時折周辺に艦船を出したりして威嚇するだけだった。
こうした緊張状態の中、霧島と渡辺が視察してきた大藪精機と先進医療技術研究所は国防省の審査を通り、正式に仕様をかわすことになった。
大藪精機はこれを見越してジェネレーターを開発していたのか、発注から1か月で試作機が納入された。
大藪精機の開発部長で、社長の長男である大藪道彦がこの開発の責任者であった。
試作機は大きさ、重量、出力ともに霧島を満足させるものであった。しかも水素タンクは複合材で作られた0.5Lサイズのカートリッジで使い捨て交換前提のものであり、現場での水素補充を不要とするアイデアが盛り込まれていた。
「このカートリッジ1本でどれくらい稼働できますか?」
全開だと、20分程度しか持ちませんが、実際にはそこまで負荷が続くとは考えられません。1/3の出力なら1時間は運転できます。カートリッジは軽いので常時数本を搭載して順次切り替えて使えば数時間持ちます。
「満充填でこの重さです。」
大藪は霧島にカートリッジを手渡した。
「ペットボトルより軽いですね。」
「そこを目指しました。そのため、民生品規格ほど強度を上げておりませんので、再使用不可で所定のケースに入れて運搬することを前提にしております。その条件で、軍の規格と高圧ガス保安法をクリアしています。」
「よく短時間でそこまでやっていただけた。ありがとう。」
「私どもも、霧島さんのアイデアでこの製品には汎用性があり、商売になると見込んで先に開発を進めていました。
これが民生用のカートリッジです。再充填可能なものですが、強度はかなり安全マージンを見込んであります。
「さすがに全然重さが違いますね。」
霧島は技術力の高さに満足だった。
「カートリッジは何本用意できていますか?」
「今回は500本お持ちしました。必要なら1日に30本程度は生産できます。」
「わかりました。エンジン3台は私がLSC用に持っていく。渡辺さん、残りの2台は先進医療技術研究所に渡してもらえますか?」
「先進医療技術研究所なら、私の会社のそばですので、よろしければ私のほうでお持ちします。」
「それはありがたい。ではお願いします。」
「どなたにお渡しすればよろしいですか。」
「主任研究員の高島さんに渡してもらえればわかります。私からも連絡しておきます。」
「申し上げにくいのですが、今後技術的なやり取りをその高島さんと直接してもかまいませんか?もちろんその内容は報告させていただきます。」
「それは構いません。そのほうが高島さんも開発が早くなると思います。いろいろご協力ありがとうございます。」
霧島はようやくプロジェクトの一部が進み始めたと実感していた。
しかし、事態はその霧島の喜びを無残にも打ち砕いてしまった。




