第二話 JAXA
二人はまずJAXA筑波宇宙センターを訪ねた。
あいにく、開発に携わった担当者はすでに配属が変わりここにはいなかったが、実質的に製作した大藪精機の社長と開発者が同席してくれた。
JAXAと大藪精機から一通りの説明を受け、実際に稼働する水素ガスタービンエンジンを見せてもらった。
「意外と静かですね。」
「はい、すべて回転体だけですから振動は少ないです。最大で2万回転まで回ります。その時に10KWの出力になります。」
そう言って回転数を2万回転に上げた。心地よいタービン音だけがかすかに響いている。
「これは、特許とか論文とか出てないですよね。」
霧島が尋ねた。
「そうなんです。早々に不採用になってしまって放置してしまっていました。私も問い合わせが来るまで忘れていたくらいです。」
大藪社長が笑いながら答えた。
「技術的には完成されているのでよね。不採用はどうしてでしょうか?」
「それは私から説明します。」
JAXAセンター長が回答してきた。
「今、見ていますように、地球上では水素ガスタンクだけあれば動きます。酸素は無尽蔵にあります。月世界ではここに酸素タンクが必要になります。さらに発生した水のタンクも必要となると、地球よりも容積や重量がかさんでしまいます。さらに水は凍ってしまいますので、保温材やヒーターも必要になります。宇宙ロケットの積載物はグラム以下の単位で軽量化していく必要があるので、いくら性能面で優れていても採用できないのです。
しかし、なぜ今頃国防軍がこれを?」
「開発中のパワースーツの動力源を探していました。」
霧島はストレートに回答した。渡辺はそれを聞いて驚いていた。
「霧島さん言ってもいいのですか?」
渡辺は小声で聞いた。
「パワースーツは公知の開発品だから大丈夫ですよ。私の専権事項です。」
「なるほど。」
「これを使わせてほしいとすれば、窓口はJAXAさんになりますか?」
「いえ、我々は不採用にしていますからすでに権利はありません。直接大藪精機さんと取引していただいて結構です。」
「そうですか、それはありがたいです。」
「大藪社長、ぜひとも協力していただきたいです。」
「私もそれは願ったり叶ったりです。この事業では正直利益が出ておりませんので、使っていただければありがたいです。」
「しかし、申し訳ないのですが、軍用に使うとなると少しこちらで調査をさせていただかないといけない決まりになっております。会社だけではなく役員の身辺調査まで含みます。そこはご理解ください。
そのうえで機密契約を結んだうえでの取引となります。」
「それは了解しております。」
「委託する前提で申し訳ないのですが、これにつなげる小型ジェネレーターの開発を合わせてお願いしたいです。」
「それならさほど難しくはないでしょう、どうだ?1.5倍くらいの大きさに収まるかな?」
大藪社長は帯同した技術者に聞いた。
「それくらいで収められるでしょう。7KWくらいの出力になりそうですね。」
「この組み合わせならポータブル発電機として売り出せそうだな。」
大藪社長は上機嫌だった。
「ありがとうございました。良い成果を得ることができました。
大藪社長、事務的な話は改めて中里というものが連絡いたしますので、よろしくお願いいたします。」
午前の視察は成功裏に終わった。




