第一話 新技術
月曜日、市ヶ谷に登庁しても霧島は元気がなかった。すかさず中里がそれを見つけて近寄ってきた。
「何だ、葵ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
「いやそうじゃないよ。」
そんな気楽な話じゃないですよと言いたかったが、そこは言葉を飲み込んだ。
「そういえば、陸防の渡辺少佐が朝早くから待っているぞ。君に話したいことがあるらしい。」
「なんだろう?」
「501会議室に待機している。」
霧島は急いで501会議室に向かった。
「お待たせしました。渡辺少佐。」
「いやいや私がかってに早く来てしまっただけですよ。家からは市ヶ谷のほうが近いので早く着いてしまいました。」
「それで、急なご用件とは?」
「先週の会議でパワースーツの技術的な限界を示唆されていた件です。」
「はい。確かに今の状況では画期的に向上は見込めていないです。」
「あれから、いくつか知り合いに探りを入れてみたんです。人脈を使うことが禁止されていましたので、一般論でしか話はしていないです。もちろん何に使うかは伝えていません。すると使えそうな話が2件舞い込んできたんです。」
「何ですと!」
霧島の顔に血色が戻った。
「一つは、JAXAが開発した、まあ、実際に開発したのは大藪精機とかいう会社らしいですが、小型の水素ガスタービンエンジンなんです。直径100ミリ長さ100ミリ程度で最大10KWの出力が得られるそうです。これに小型のジェネレーターを着ければ発電機になります。」
「なるほど。しかしなぜそれをJAXAが持っているのですか?」
「聞いた話では、無人月面探索車の動力として開発されたらしいのですが、結果的に水が排出されることが月面の環境負荷になる恐れがあるということで却下されたものです。技術的には完成されていてもJAXAではほかに使い道もなくお蔵入りになっているそうです。」
「なるほど、バッテリーよりも何倍も優れている。そしてもう一つは?」
「つくばにある先進医療技術研究所という施設があるんですが、ここにいる高島という研究員が長年ロボット義肢の研究をしているそうで、スポーツができるレベルの義肢開発だそうです。具体的にどうやっているのかまでは分からないのですが、コンポーネントとしてはパワースーツに応用できるのではないかと睨んでいます。」
「確かに可能性はあるな。」
「もし、よろしければ、JAXAもつくばの宇宙センターですし、アポイントを取りますから見に行きませんか?」
「それは望むところです。さらに言うなら、水素エンジンによる発電はLSCにも使えるのではないかな。」
「そうですね。」
「では、お願いします。決まったら霞ケ浦までヘリを依頼します。」
午後には、渡辺から両者にアポイントが取れたと報告があった。
3日後に、二人はヘリで市ヶ谷から霞ヶ浦駐屯所に向かった。




