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零の均衡(ゼロ・バランス) ―兵器になった女・葵―  作者: 矢寿紀張
第三章 プロジェクト始動

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第六話 銀座デート

 霧島は翌日久しぶりにゆっくりと寝た。そして土曜日に待ち合わせ場所の有楽町駅に行った。待ち合わせ場所にはすでに葵が待っていた。

「信二、遅いよ。」

 葵が声をかけた。

「遅いって、約束の時間に未だ5分あるじゃない。」

「15分前には待機って言われてない?」

「まあ、そうだけど。プライベートな時間まで持ち出すなよ。」

「まあね。制服を着てこないだけましか。」

 葵は笑いながら言った。

「久しぶりだからおいしいものが食べたいな。銀座に行きましょう。」

 二人はしばらく歩いた後にえんじ色のビルのパーラーに入っていった。昼前だから土曜と言っても来客は少なかった。

 隅のテーブルに二人で座り一緒にメニューを見ながら、何を食べるか相談していた。

 食事も終わり、コーヒーを飲みながら葵が話をした。

「しばらく会えなくなるかもしれない。」

「え、どうして?」

「南の島の駐屯地に移動になるらしいの。」

「葵がか?」

「いいえ、中隊ごと移動。」

 葵は昨日の事を思い出していた。

 葵は朝霞駐屯地の第一レンジャー中隊の隊長である。その日葵は駐屯地の山南司令に呼ばれた。

「如月中尉、日程はまだ明確にできないが、中隊ごと石垣島に派遣することになった。詳細は極秘計画なので今は話すことができない。もちろん隊員に話すことも禁止だ。中隊長である君にだけは伝えておく。以上だ。」

 葵は何か大きな役回りになるとワクワクしていた。しかし、それを婚約者と言え霧島に話すことはできない。

「機密事項の塊で、私も詳しく知らされていないし、これ以上も話せないの。」

 霧島はぎくりとした。

 ―――南の島は石垣島か?葵のレンジャー部隊の成績から、白羽の矢が当たることは目に見えていたはずなのに、うかつだった。

 一昨日の渡辺や松野の言ったことが頭によみがえってきた。喉がカラカラになって、グラスの水を一気に飲みこんだ。

「どうしたの?」

 葵が心配そうに尋ねた。

「いや、寂しくなるなって。」

「しょうがないじゃん。戻ってきたらまたデートすればいいよ。」

「そうだな。」

「この後、買い物したいから付き合ってよ。」

「どこにでも行くよ。」

 二人は店を出て、銀座の街を歩いて行った。

 ―――その機密作戦の首謀者が俺だとは言えないし、もちろん止めることもできない。軍人である以上仕方のないことだ。無事を祈るしかない。

 二人は交差点の角のデパートに入り、あれやこれや見たうえで、お揃いのチャームを買った。

「これを認識票と一緒につけるのが女子の間ではやっているの。私も真似したくなって、いやだった?」

「いや。俺も認識票につけておくよ。」

「ありがとう、これでいつもつながっている感じがするね。」

 二人はまた有楽町の駅で別れた。

 言葉では言いようのない恐怖感が霧島を襲った。

「中里さんにも言えないな。」

 言えば、中里は裏で手をまわしてしまうだろう。霧島はそういう扱いが一番いやであった。


     挿絵(By みてみん)

     待ち合わせの葵


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