P−8
『エ・ルミィス(神の手)』と呼ばれる
所以は、生み出す力である。
知識、経験、個々の想像力に反映する為、
彼らは成人するまで力の使用を
禁じられている。
マグリヤ国と樹海という環境により、
幼少期どうしても力が抑えきれず
暴走するという事象も減った。
その感謝という意を込めて
彼らが始めたのは、“授与”という儀式だ。
シェライア自身、この言葉が好きではない。
“授与”なんて、偉そうに。
そう考える時もあった。
しかし、今では。この力が
皆の為になるなら、と。
考え方を変えて、惜しみなく使おうと
心に決めていた。
だから。初めて生み出すものが、
剣というのは。
少なからず、抵抗がある。
本当は。
日頃、自分と向き合ってくれる感謝を籠めて
髪飾りを贈ろうと思っていた。
彼の、綺麗な黒髪に合うような。
そっと、寄り添うように。華を。
顔立ち、背丈、体格。
ダナント卿の子息。
全て恵まれていて、民からの支持も厚い。
きっと多数から、
想いを寄せられているだろう。
しかし、その方面の話を全く聞かないのが
不思議だった。
色恋すらも。自分という存在で、
自由にできないならば。
本当に、申し訳ないとしか言い様がない。
朝食を摂る場所は、いつも
『トラン(目覚め)』と呼ばれる部屋である。
中央には、大きく長いテーブル。
モルドワイル、アーレシア、シェライア。
クラマ、レイラ、トウマ。
『エ・ルミィス』一家とダナント卿一家が、
向かい合うように座る。
「今日という日を迎えられて、
実に喜ばしい。」
綺麗に整えられた口髭も、嬉しそうだ。
「平穏無事に、つつがなく娘が成長できたのは
貴殿のお陰である。」
お父さま、皺が増えたかも。
「いえ。我々が穏やかに暮らせるのも、
貴方様方のお陰です。」
互いに、讃え合うことから始まる朝食。
今日は、いつも以上に和やかだ。
「シェライアさま、実に
お美しくなられましたわ。」
「トウマこそ、一段と凛々しくなって。」
母親たちの子煩悩さも、拍車がかかっている。
飛び交う讃え合いを気にすることなく、
トウマは焼きたてのパンを千切って
頬張っている。
お母さまが生み出した、生地を焼く窯。
私が10歳の時に、
“授与の儀”で寄贈された物だ。
それで焼くパンは、とても美味しい。
「成人という目出度い門出に、
一つ進言が。」
「何なりと。貴殿の提案とあらば。」
「成人を期に、シェライア様のご婚姻を
お考えになられては、と。」
婚姻。
その言葉に、パンを千切る手が止まった。
「流石は貴殿だ。実はもう、前々から
私たちが心に留めている者がいる。」
「ふふっ。今年も、彼の小鳥が
飛んできていたわね。」
穏やかな綻びを浮かべ合う、二人。
気づいていたのか。
そうよね。気づかないわけがない。
「その青年を是非、シェライアの相手として
迎えたいと考えている。」




