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シェライアは、ちら、と
トウマに目を向けた。
食べる手は、止まっていない。
子羊とチシャ菜のシチューを、掬って
口に運んでいる。
「それは、ご英断だ。倅にも、我々が
前々から心に留めている者が在ります。」
「おぉ。それは初耳だ。」
「とても奥ゆかしくて、麗しい方です。」
「まぁ。是非、お会いしたいわ。」
······トウマは、婚姻の事
知っていたのだろうか。
「お互いに、良き門出となりそうですな。」
「あぁ。誠に。」
何で、そんなに無関心でいられるのか。
私は、意外と。動揺しているというのに。
トイアールが、私の婚約者。
もしかしたら、彼は。そう心に決めていて、
毎年私に、お祝いの言葉を。
そうだとしたら。
喪失感しかない。
同胞で。気が合って。
友で在ると思っていた。
そうじゃ、なかったんだわ。
······
婚姻なんて、考えられない。
まだ、小さな願いさえも。
トウマに打ち明けていないのに。
叶うどころか。
また、縛られる。
パンを、口に含んだ。
美味しかなかった、香ばしいパンが。
強く、打ちのめした。
平和だ。本当に、平和。
私も。トウマも。
親たちが決めた道を、素直に進み。
このまま、一生を終える。
滑稽だわ。
シェライアとトウマが
バルコニーから姿を現すと。
開放された城の庭園に
敷き詰めていた民衆が、歓声を上げた。
シェライアさま!
トウマさま!
おめでとうございます!
それに応えて、二人は笑顔で手を振る。
涙を流し、拝む者。
声援を送り続ける者。
目につく者皆、
紛れもない歓喜を浮かべていた。
この光景が。時が。
早く、終わればいいのに。
笑顔の仮面を付けた彼女の心は、
氷面下のように閉ざされていた。
ふと、隣に並ぶ彼を目に捉える。
笑顔で応える姿は、輝かしく。
堂々と、その役を熟している。
視線を送っていると、こちらに向いた。
涼やかな目が、少し熱を帯びる。
その、僅かな光によって。
大きな歓声が、遠のいた。
あぁ。そうか。
トウマ。あなたも。
この呪縛に、耐えているのね。
同じだと、分かるなら。
私も。耐えられる。
あなたという存在が、私を。
保たせてくれる。
式典は、城に併設されている神殿で
滞りなく進行し。
“授与の儀”の時を迎えていた。
青空が覗く天窓から陽が差し込み、
照らされる祭壇。
そこに立つ、シェライアたちに
向かい合うように。
クラマたちの一家と、その縁者たち。
そして、ダナント卿に仕える幹部たちが
頭を下げて跪いている。
しんと静まり返る、厳かな空気の中。
モルドワイルの、太い声が放たれた。
「この喜ばしい日を迎えられたのも、
『私たち』を支持し拠り所と成してくれた
貴殿たちの功績によるものである。
その栄誉を讃え、“授与”の儀を行う。
······トウマ。前へ。」




