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すっと立ち上がり、
祭壇へ上がる彼の表情は。
民衆へ向けていた綻びはなく、
精悍さが際立っていた。
すぐに跪き、頭を垂れる。
「シェライア。汝とともに過ごし、
身を挺して護ってきた素晴らしき騎士の
栄誉を讃えよ。」
告げられるままに、彼女は
跪く彼の前へ歩み寄った。
トウマ。
私に跪くことなんて、ないのよ。
······
そう思ったところで、何も変わらない。
十分、分かっているけど。
こんな、芝居じみた事を。
甘んじて受け入れることは、ないのに。
彼女の白く細い右腕が、ふわりと上がる。
そして細長い指を、
空中で孤を描くように滑らせた。
神よ。
私たちに与えた宿命は。
こんな馬鹿げた儀式と、
退屈な人生を歩ませる為なのか。
私たちの、生きる意味は。
風が、巻き起こる。
光の粒子が生まれ、絡むように
彼女の右手から溢れ出す。
望むのは。
護るためではなく。
呪縛を、解き放つ剣。
きっと彼は、それを欲している。
赦されるならば。
与え給え。
粒子が固まり、次元を繋げる。
握り締めたものは、剣の柄。
鞘を抜くように、水平へ引くと。
白銀の刃が現れた。
眩い光は、剣の鞘となり。
実物となったそれを、彼へ差し出す。
「あなたに、神のご加護を。」
彼女が無機質に紡いだ、その時。
別の風が、舞い込んだ。
それに逸早く気づいたのは、
トウマだけだった。
彼は即座に立ち上がると、
シェライアが差し出した剣の柄を握って
鞘を抜く。
ブォン!と、音が鳴った。
何が起こったのか、ようやく気づいた皆は
彼が振り抜いた先に注目する。
血が流れる右肩を抑え、不敵に笑う男。
身なり、髪型、纏う全てが。
マグリヤのものではない。
「骨のある奴が、いたとはなぁ。」
シェライアは、狼狽するしかなかった。
一体、何が起こったの?
目で捉える事ができるのは、彼の背中。
そして、対峙するように立つ見知らぬ男。
跪いたままで顔を上げ、
驚愕しているダナント卿たち。
「な、何者だ?!」
ここまで大きく動揺した父の声を聞くのは、
初めてだった。
怯える母の姿を見るのも。
「あいたたた······中々痛いぞ。」
「名乗れ、狼藉者。」
この場で唯一人、彼は。
動揺する素振りがない。
「名乗るほど偉くねぇよ。」
こんな状況下で、男は笑っている。
「捕まえないのか?」
しかも、逃げずに。
捕まるのを、待っているような様子で。
「逃げも隠れもせんぞ〜。」
「父上。」
トウマの一声で、クラマは我に返る。
「······何をしている!早く捕らえよ!」
ようやく幹部たちは動き、
男の動きを封じる。
その場から連れて行かれるのを、
シェライアは呆然と見送った。
この、“授与の儀”で起こった出来事は。
彼女たちの行く末を、大きく変えていく。




