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「お前の前では読まんから、安心しろ。」
笑いながらトウマは、
書棚の側板に背を向けて寄りかかる。
その場所は、彼が部屋に訪れた際の
定位置になっていた。
腕を組む仕草も、いつも通りであるが。
正装しているせいか、絵になる。
「意味が分からないわ。」
はぐらして答えない彼に、シェライアは
苛立ちを覚えながらも。
この思い通りにならない彼が、
自分と対等に向き合っていると思うと。
嬉しい気持ちの方が、勝ってしまう。
「······ねぇ、トウマ。」
「何だ。」
「私ね、ずっと
秘密にしていることがあるの。」
「······」
「話してもいい?」
「それは、長くなるか?」
ぶっきらぼうな問いに聞こえる。
だが、彼なりの気遣いだと理解する彼女は
頬を緩ませた。
『エル・ラド』の外に出向きたい。
その一言だけなのだが。
「長くなるわ。」
「じゃあ、式典が終わってから聞く。」
「ありがとう。」
紡ぐまでに、時間が掛かるだろう。
しばらく、しんとする。
他者だと、この静寂は気になるが。
彼相手だと、別物になる。
このまま喋らなくても、心地好い。
「······シェライア。」
彼が名前を響かせるのは、珍しかった。
しかも、正装の効果が
ここでも働く。
少し、背筋を伸ばした。
「······何?」
「“授与の儀”について、だが。」
式典行事の流れは、毎年ほぼ同じである。
城のバルコニーから民たちへ、
姿を披露する事から始まり。
ダナント卿の縁者たちと
『エ・ルミィス』の代表である
シェライアの両親が、城内で
絆を表明する為の儀式を行う。
今年は成人ということもあり、
シェライア本人も儀式に加わる予定である。
その一つが、“授与の儀”だ。
「一応、考えていたけれど。
何か欲しいものがあれば、話して。」
初めて“授与”する相手は、トウマである。
「剣。」
「······」
常に彼が常備している剣は、
シェライアの父・モルドワイルが
“授与”したものだ。
今も、腰に装備されている。
「どう考えても、私の力では
父のよりも貧相になってしまうけど。」
「構わない。」
構わない、わけないじゃない。
「剣なんて、“授与”したくないわ。」
母・アーレシアのように。
穏やかな暮らしに必要な物を、生み出したい。
「······そうか。分かった。」
案外、あっさり身を引いた。
それが、なぜか気になった。
もしかしたら、自分と同じように。
剣が欲しいと。
彼も、秘めた願いを紡いだとしたら。
「······どうしても欲しいなら、いいわよ。」
彼女の打診に、彼の視線が向く。
その反応は、明らかに。
的中したのだと確信する。
「······無理なら、いいが。」
「素直に喜びなさいよ。」
表情筋が乏しい彼を笑顔にさせるのは、
至難の業だ。
だから、心から笑えることを。
私は常に考えている。
「······ありがとう。」
浮かべた微笑みは、柔らかい。
嬉しい。それが、滲み出ていた。




