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マグリヤ国として成立したのは、
およそ100年前。
『エ・ルミィス』と親交が深かった
シグマ・レゥ・ダナント卿が、
彼らを脅かす手から護る為に
教皇として君臨した。
実質、統治と象徴の位置づけである。
豊かな土地と治安が築けているのは、
彼らの信頼と繋がりの強さで
叶っているのかもしれない。
扉がゆっくり開き、現れた姿に
シェライアは目を見開いた。
真っ直ぐ向けられる涼やかな瞳。
これは、いつもと変わりない。
闇のように混じり気のない髪は、
綺麗に纏められて背中に流れている。
身に纏う、滑らかな白銀の鎧。
胸元に刻まれる、マグリヤ国の紋章。
こんな見事な装いの彼を、
今まで見たことがない。
「······」
「······」
互いに、姿を捉えたまま時が固まる。
彼もまた、ここまで麗しい彼女を
目に映すのは初めてだった。
均衡が崩れたのは、ふ、と和らいだ
彼の微笑みによってである。
「似合わんな。」
低い声で、一言。
そう放たれて怒るところなのだろうが、
彼女は噴き出すように笑う。
「あなたもね。」
トウマ・レゥ・ダナント。
シェライアと同じ日、同じ時間に生まれた
ダナント卿の子息。
いかなる時も同じく過ごしている為、
彼女にとって彼は
家族同然のような存在である。
そして、誰よりも。
彼女の本質を知る。
「誕生日だな。」
「誕生日ね。」
「おめでとう、と言うべきか?」
「私とあなたの間で、その言葉は
要らないでしょう?」
「······まぁ、そうだ。」
二人でいる時の彼は、敬う言葉を使わない。
それが救いであり、心を許せる。
「朝食を摂ってから、式典が始まる。」
「ええ。それまで、待機よ。
この格好じゃ、出歩けないわ。」
そう告げた彼女に、トウマは
驚きの色を見せる。
「······出歩くつもりだったのか?」
今日は流石に無理だろう。
そんな響きが含まれる。
彼が発する言葉は少ない為、他者からすると
何を考えているか読み取るのが難しい。
しかし、シェライアには容易だった。
彼が何を思うのか、考えるのか。
同じ空間で呼吸していたら、
手に取るように分かる。
「外に出るつもりは、勿論なかったわよ?
書籍室へ行きたいのよ。」
「書籍室?」
「あの続きを、読みたいの。」
しばらく考え込んだ後、彼は
あぁ、と声を漏らす。
「俺も読みたい本がある。」
「へぇ、あなたが?どんなのかしら?」
珍しい。脳筋だと思っていたのに。
「お前には、まだ早い。」
「?」
「一生無理かもしれんな。」
「え?」
首を傾げる彼女に対し、彼は
息を漏らして笑う。
「式典が終わったら、出向こう。」
「ちょっと。どんな本?」
「腹減ったな。」
「はぐらかさないでよ。」
立派な格好をしている効果だからなのか。
トウマが読みたいと思っている本が
どんなものなのか、ピンとこない。
こんなことは初めてだった。
なので、追求する。
「あ。分かった。
身体を鍛える為の本でしょ?」
「······」
「じゃあ、料理の本?」
「······」
「もう、何なのよっ!」
笑っていないで、答えなさいよ!




