Cr3-21
「攫おうとした、という事は
防げたんだ。」
「ああ。かろうじて、だが。」
そうだ。
無傷、ではなかった。
その人は、トウマの一太刀を浴びている。
不本意ではあるけれど。
生み出さなければ、防げなかった。
解放する剣、というものを。
「まぁ、そうだね。そうじゃなければ、
こうして王子サマと従者一人だけで
のこのこと出向くわけがない。
要するに、それを
探ろうとしていたわけだ?
友好関係を築くっていうのを、盾にして。」
「······」
鋭い。
キルケの洞察力は、桁外れかもしれない。
「トウマ様っ」
嘆きに近い声を吐き、ラウンは
椅子から下りて床に頭を付けた。
「私たちは、決してっ。
その様な卑劣な行為は致しませんっ。
国王のお考えは、自然法を尊重し
和平をお望みでございます。
ですから、どうかっ······」
「ラウン。分かっている。
頭を上げてくれ。」
トウマも椅子から腰を上げ、
目線を合わせて跪く。
「これは、貴国を巻き込み
綿密に練られた策略だ。
マグリヤとの、亀裂を生む為に。
······見解が甘かった我々を、許してくれ。」
その低い声は、淡々と紡がれた。
だが。
彼女には伝わる。
その奥に燃えたぎる、怒りの熱を。
「一刻を争う。今から、ここを
発てないだろうか。国王に拝謁し、
由々しき事態を報せたい。」
「止めておきな。」
それを鎮めるような、キルケの一声。
「夜のデオルタールは、
どんな狩人でも避ける。
一晩待った方が身の為だ。」
「しかし······」
「王子サマ。頭を冷やしな。
お国の話なんて興味ないけど、下手すると
大勢の命を犠牲にする。」
確かに。
キルケの言い分は、恐ろしく正しい。
権限を持つ者は。
救うことも、虐げることも
容易にしてしまう。
彼は、膝の上で
拳を握り締めている。
理解している。理解しているからこそ、
一刻も早く、どうにかしたい。
そんな、逸る気持ちが。
痛い程に伝わってきた。
「じっと考えて、機会を待ちな。
それこそ、まだ漏らさずに
ここだけの話にしておいた方が
いいと思うが。」
シェライアは、改めるように
キルケを見据えた。
この女性は。
どれだけの修羅場を、潜ってきたのだろう。
「······恩に着る。」
「あはっ。感謝されてもね。」
「トウマ様。申し訳ございません。
私も同様の気持ちではございますが、ここは
キルケの言う通りに願います。
デオルタールを深く把握しているのは、
この者を置いて他にいません。」
「おー。分かっているじゃないか。」
沈む表情の男たちとは対照的に、
キルケは明るい笑顔を浮かべる。
「いっぱい食って、寝て、
明日に備えた方がいい。嫌でも、
『ロ・フヴァ』と遭う事になるからね。」
そう、言い放つ姿は。
どんな困難も、打ち勝てるような。
勝利の女神のように見えた。
ランドーラ国城下町へ向かう行程の
話し合いは、これで一旦
幕を下ろすことになる。




