Cr3-17
「お名前をお伺いしても、宜しいですか?」
「······シェ」
「シェルだ。」
すかさず、彼の声が被さる。
あ。そうだったわ。
危ない。シェライア、と。
普通に、名乗るところだった。
「シェルさん。よろしくお願い致します。」
「は、はい······
よろしくお願い致します。」
物腰柔らかく告げられ。
彼女は、戸惑いながらも会釈して応える。
「トウマ様。シェルさん。
遠路を経てお越しくださったこと、
心より歓迎致します。これは、
国王より仰せつかりましたお言葉に
ございます。」
再び恭しく頭を垂れる様を、彼は
静かに見据えて告げる。
「此度は、ダナントの名において
マグリヤ国とランドーラ国の、
確固たる同盟を築く為に訪れた。
······『エ・ルミィス』の加護も、
授かっている。」
顔を上げたラウンの表情は、
著しく明るかった。
「この上ない喜びであります。
······船旅で、お疲れだと存じます。
宿を取っておりますので、今日は
ゆっくりお休みください。
今後の、旅路の行程もお伝えできればと。
実は、連れがもう一人おりまして······
先に宿へ待機しております。」
「······了承した。」
窺う限りでは。
私を攫おうと目論んだとは、思えない程に
歓迎の意を表している。
でも、油断はできない。
書簡に記した真意を、慎重に探らなくては。
ラウンが先導して向かった宿屋は、
小さいながらも精巧で美しい外観だった。
使われた素材や技術に、
シェライアは興味津々で眺める。
『エル・ラド』にはない造りだわ。
しっかりしていて、素晴らしい。
そんな彼女を気にしながらも、トウマは
先に中へ入ったラウンの動向を窺う。
「世話になるよ。ご主人。」
「いらっしゃいませ、ラウンさま。
ご利用ありがとうございます。」
「キルケという女が、
先に泊まっているはずだが。」
「はい。奥の部屋へ通しております。」
宿屋の主人と話した後、二人の元へ戻り
にこやかに告げた。
「それでは、参りましょう。」
連れられて歩いていくと、ラウンは
向かった先の部屋の扉を叩く。
「キルケ。私だ。」
その呼び掛けに、間を置いて応答があった。
「今、取り込み中なんだけど。」
「すぐ、どうにかしろ。」
「はぁ?待たせておいて、
それはないじゃないか。」
穏やかな印象しか窺えなかった、
ラウンの表情が。
曇り出して、険しくなった。
「いいから、すぐ開けろ。」
「急かすな。大事な調整しているんだよ。」
その一声で、頭にきたのか。
返答を待たないまま、扉を開ける。
いいのかしら、と。シェライアは、
ハラハラしながらも。
部屋の中を、恐る恐る窺った。
大きなベッドの上に、
胡座をかいて座っている女性がいる。
姿格好が。今までに見たことがなく、
とても奇抜だった。
しかも、胸元が。
そんなに開いていたら、と。
彼女は、目のやり場に困った。
それは、彼も。同じくである。
「······全く。これで不備が起こったら、
アンタのせいだからね。」




