Cr3-10
船室から出ると、悲鳴が聞こえた。
空気が一気に、緊迫する。
何が起こっているのかは、分からない。
だが。
トウマは、自らの船室へ戻り
素早く剣を手に取った。
早足で船上に向かう彼の後を、シェライアは
黙って付いていく。
二人が船上へ行くと。
逃げ惑う乗客たちと、
弥帆に向かって槍を構える
乗組員たちの姿を捉えた。
混乱の中、川の流れに逆らう石の如く。
留まるマルライーナの姿を発見する。
「一体、何があったの?」
尋ねたのは、シェライアだったが。
応える言葉を紡ぐ先は、トウマへ向けられる。
「退けられるのは、その剣だけだね。」
先導としての、助言なのか。
その言い方だと。彼の腕前ではなく、
剣そのものを指しているように聞こえる。
彼が手にする剣は、
自らの力が生み出した物だと。
告げた覚えはない。
この人には、視えているのだろうか。
言霊の力を感じながら、彼女は
彼へ目を向ける。
その表情には、何も浮かんでいない。
いや。集中しているのだろうか。
「『ロ・フヴァ』が現れたのさ。」
聞き慣れない発音。
『それ』の存在は、
城の書籍室で知識として得ているだけだ。
まさか、こんなにも早く。
この、今まで穏やかだった海で。
『それ』に、遭遇するなんて。
マルライーナが紡いだ言葉を
聞き入れたのかどうかは、定かではないが。
彼は、乗組員たちの元へ向かって
ゆっくり歩を進める。
「下がれ!」
トウマの接近に気づき制する、大男がいた。
日に焼けた体格も、纏う風格も。
他の乗組員とは段違いである。
名乗らずとも、船長であると認識できた。
「見当たらないが。
『ロ・フヴァ』は、何処だ。」
剣の柄に手を掛けながら、紡ぐ彼を。
船長は、怪訝そうに窺う。
「······狩人か?」
「······そんなところだ。」
説明している暇はない。
有無を言わせない彼の気迫に圧され、船長は
即座に呑み込んで言い放つ。
「弥帆の下に貼り付いている!
このままだと、海に引きずり込まれるか
大破されるか······この海で出くわすなんて、
今までになかったのに!」
「一瞬でも、姿を見たか?」
「大きな、烏賊みたいな足が·····
······吸盤も、あった。」
トウマは、誰よりも前に
弥帆へと、慎重に歩いていく。
その行方を、シェライアは
息を呑んで見守る。
この視界からは、全貌が窺えない。
“貼り付いている”という言葉から考えると。
「······どうにか、剥がさなくては。」
このままでは、沈没してしまう。
スラリ、と。剣を抜いた。
弥帆の先端に辿り着く手前で、何かが
トウマへ目掛けて襲いかかる。
彼は寸前で躱し、瞬間で目に映した。
鞭のように伸びる、大きな足。
彼の顔くらいの、大きな吸盤。
全貌はまだ映らないが。
本体は、想像以上に巨大だろう。
それでも。
“カフ・ドランドー”よりは、小さい。
先に対峙しておいて、良かったな。
そう彼は思って、綻ぶ。




