Cr3-8
狭い出入り口を、潜るように
トウマは船室内に入る。
天井に、頭が付きそうだ。
この船室の広さ、私は丁度いいが。
彼だと、窮屈に見える。
「······椅子に座るぞ。」
「ええ。」
彼女は、ベッドへ。
彼は、机椅子へと。腰を下ろす。
二人いると、一気に狭く感じた。
「······頬の傷、固まってはいるけれど。
やっぱり目立つわね。」
「治らなかったら、尾びれを付けて
話題にするつもりだ。」
道中、“カフ・ドランドー”と遭遇しましたが
剣で追い返してやりました。
なんて、言うつもりかしら。
ランドーラ国側には、
港町『タラン』に到着する日時を
朧気に伝えている。
どのように迎えられるのか。
その対応次第で、今後
進める方向を決めていくのだが。
「······これは、何だ?」
彼は、机の上に視線を向けて
何かを手に取ろうとしている。
手記を置きっぱなしにしていた事に気づき、
シェライアは慌てた。
「見ないで!」
凄い勢いで制され、彼は目を丸くする。
「何だ?······ああ、もしかして日記か?」
「そ、そうよっ。」
「読まれたら、困るのか?」
好き放題書いているものを、
読まれるのは。しかも、彼に。
「他者に読ませるものでは、ないでしょう?」
彼女は立ち上がって、手記を取ろうとした。
しかし。
寸前で、取り上げられる。
「えっ?」
「慌てているのが気になる。
俺の悪口でも、書いているのだろう?」
「ちょっと、返してっ!」
焦って取り返そうとする
シェライアの手を、トウマは難なく躱す。
彼は、悪い微笑みを浮かべている。
なぜ。
いつもなら、引き下がってくれるのに。
何で。
「益々、気になる。」
「トウマ。怒るわよ。」
「取り返してみろ。」
「ねぇ。お願いだから、返して。」
暇を持て余し過ぎて、
おかしくなったのだろうか。
類を見ない悪戯に、戸惑う。
「トウマ。」
「ほら。ここだ。」
立ち上がった彼が示した、手記の位置は。
飛び上がらないと、
届かない所にある。
悪質だ、と。睨み上げる彼女を。
優しく綻んで、彼は見下ろす。
「鍛錬だ。シェライア。」
「これの、どこが鍛錬なのよ。」
頑張って飛んだところで、きっと。
彼は、更に高く持ち上げるだろう。
「冗談が過ぎるわよ。」
「平常心。それを鍛えるのでなかったのか?」
飽くまでも、引き下がらないつもりか。
ならば。
「くすぐるのは、無意味だ。
日頃、動じないように鍛錬している。」
やろうとしていた事が。
えっ。そんなの、鍛えられるのかしら?
······
ああ、もうっ。
「さぁ。どうする。」
今の時点で。
取り返せる可能性は、無いに等しい。
体格差、瞬発力、物理的な面で
彼には、到底及ばない。
本当に、どうする。
「観念して、読ませるか。
何とかして、取り返すか。どちらか、だ。」
読まれるのは、本当に駄目だ。
挟まっている栞を見られるのも。
何とかして、取り返すしかない。
諦めたくない。
妙な対抗心が、生まれる。




