Cr3-7
「船の上で鍛錬するのは、
怪しく思われるだろうか。」
「鍛錬、するつもりなの?」
「一日も欠かしたくない。」
肩の力が抜けたと思ったら、これだ。
「休むのも、鍛錬よ。」
「感覚が鈍る。」
「······
船室内で出来るなら、いいと思うわ。」
「ああ。そうする。」
彼女は、呆れながらも笑う。
上陸したら、何が待ち受けるのか。
不安よりも、
期待の方が大きいのは。
彼が、傍に在るからだ。
「じゃあ私も、鍛錬するわ。」
「······何の?」
彼が捉えられない隣人を、
どんな状態でも見据えて。
耳を傾け、聞き取れるように。
「平常心を保つ鍛錬よ。」
「······よく、分からんが。」
彼を支えられるように。
心を、強く。
「······ねぇ、何か。良い匂いしない?」
「そういえば、船内には
食堂があるらしい。」
「えっ?」
「開くのは、朝と夜だけらしいが。」
船旅中の食事は、備えていた水と乾パン
干し芋等で済ませようと思っていた。
食堂があるなんて、気づかなかった。
しかも。この、香ばしい匂いは。
「ポルフを焼く匂いだわ。」
一気に、お腹の虫が騒ぎ出す。
「······行っても、いいかしら。」
煌めく星に負けないくらい、
目を輝かせる彼女に。
トウマは、苦笑する。
「平常心は、どこに行った?」
「常に、保っているわよ。
楽しみながら。」
「都合がいいな。」
「あなただって、行きたいでしょう?」
「ああ。行かないわけがない。」
常に、誰かの目を気にしなければならない
城内ではなく。
誰も素性を知る由はない環境で、
自由に過ごせる時間は。
私たちにとって、自らを見つめ直す
良い機会になるだろう。
何者でもない今。
私たちに残るものは。
一体、何なのだろう。
船は順調に、大陸へ進んでいく。
二日目となると、乗客たちは慣れて
暇を持て余したのか、船上に出て
交流を楽しむようになっていた。
必要以上に聞かれるのも、知られるのも
避けたい為、二人は極力船室へ籠る。
気ままに海を眺められない、
窮屈さはあったが。
船内には、小さめながらも
しっかり作られた机もあり。
すぐに寝転がれるベッドもある。
持ってきていたお気に入りの書籍を、
ベッドで寝転がって読んだり。
机で手記を書いたり、と。
シェライアは、
充実する時間を過ごせていた。
ふと、トウマがどう過ごしているか
気になってしまう。
鍛錬、しているのかしら。
昨晩言っていたように。
訪ねてみよう、と。立ち上がって
船室の扉を開けた。
すると。その彼と、鉢合わせする。
これには驚いて、ビクッと身を震わせた。
彼も、目を見開いている。
「······部屋を出ようとしたのか?」
「あなたの所へ、行こうとしたのよ。」
「······そうか。俺も、だ。」
互いに、同じ考えだったらしい。
「じゃあ、入って。」
そうなれば、どちらに行くのも
同じだと。彼女は、思ってしまった。
それが。とあるきっかけを、
発生させてしまう。




