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Cr3-6


ここで、手がかりが得られるなんて

思わなかった。



あの男は、縛り付けた精霊の力で

海を渡った。

誰にも、姿を映すことなく。



極限まで強要し、酷使するなんて。


どこまでも、許せない。




「その人、どこに行ったか分かる?」


『さぁ。海に吹く風の行方など、

 途方もない。』




確かに、そうだ。


でも。

これで、分かったことがある。



あの人は確実に、『エル・ラド』から

抜け出しているということ。


そして。精霊を縛って、その力を

思いのままに操っているということ。

白馬の精霊だけじゃ、ないかもしれない。


そんな、歪んだ術式を。

悪びれもなく、使用していること。




「······教えてくれて、ありがとう。」


『礼を言うとは······奇怪な。』




ぷしゅうっ、と、響いた後。


鯨と成していた虹色の粒子は、ゆっくりと

海闇のうねりに溶けていく。



その光景は、星空が広がるように。


やがて、塵となって消えていった。





今、うねりの中に映るのは。


浮かぶ、満天の星空。そして。




「何を見ている?」




急な低い声が、耳元で響いて。


少なからず驚いた。



跳ね上がる鼓動を否定するように。


シェライアは、平静を装う。




「精霊が、いたの。」




横に並ぶ、声の主は。

馴染み深いはずの、近しい存在。



一つに束ねた長い黒髪は、潮風で流れて。


海面を映す瞳さえも、闇に溶けそうだ。




「どんな精霊だ?」


「大きな鯨よ。この、船くらいの。」




昨晩、ふくらはぎの傷痕を

じっくり見られて、手を当てられてから。


私の心臓は、おかしい。




「海の精霊となると、規格外だな。」




低音で生み出される振動と、

頬を緩ませた表情。


聞き入れ映せば、安心するように

温かい気持ちになるのは。

今までと、変わらないが。


何故か。

痛くなる程に、心音が狂う。



今まで何でもなかった、距離間でさえも。


少し、空けたくなる。




「急に来て、どうしたの?」




こんな問い掛けはないだろう、と。

内心、彼女は焦った。




「少し、寝ていた。」




しかし、それを気にすることなく。

彼は、欠伸をしながら答える。



そのお陰で、幾分平常心が戻った。




「······寝不足になるくらい、

 気を張っていたんでしょう?

 私に、付き合わなくていいのに。」



少しでも、緩んでくれて良かった。



「夜の海に飛び込みたいとか考えそうで、

 心配になってな。」


「そこまで、しないわよ。」



彼女は苦笑した後、ぽつりと漏らす。



「······今、聞いたの。

 私を攫おうとした、あの人の姿を見たって。

 精霊を縛り付け使役して、

 この海を行き来していたそうよ。」


「······そうか。」


「何処へ行ったのかまでは、

 分からないけれど。」


「では、現在。大陸へ渡ったのは、

 間違いないという事だな。」


「······ええ。」


「貴重な情報だ。有難い。」




トウマは、天を仰ぐ。



その姿を捉えて、シェライアは思う。




今まで、彼は。


目に映らない精霊の存在を、

否定したことはない。



私が精霊と話すことも。

黙って見守り、肯定してくれる。



少しの曇りもなく、

隣人を受け入れてくれるのは。

意外でもあり、嬉しくもあった。



私という存在を。

真っ直ぐに、見据えてくれる気がして。





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