Cr3-4
「······不思議な方だったわね。」
紡いだ言葉を理解するには難しいが。
陥れるような人柄では、ない気がする。
「着いたら、訪ねてみましょう。」
「······関わる必要は、ない。」
姿を見失うまで、彼は
目を逸らさなかった。
その横顔を。彼女は見つめる。
肩の力を抜くどころか。
全てにおいて、警戒を解かない。
ここには、私たちのことを知る者は
いないというのに。
「マルライーナの言った通りよ。
ここでは、何者であるかなんて······
誰も問わないわ。」
彼の視線が、ようやく
彼女へと注がれる。
黒真珠の様な瞳に生じる、微かな揺らぎ。
それは一瞬だけで、凪へと変わる。
「会って間もない者が言ったことを、
鵜呑みにするな。」
「彼女、悪い人じゃないと思うわ。
助言をしてくれたのよ。」
「大陸では、企みを上手く隠して
近づく者がいる。良くも悪くも、
すぐに信用するべきじゃない。」
彼の目つきが、鋭くなっている。
ようやく緩んだと思ったのに。
また更に、固くなったような。
向けられる視線に、しばらく合わせて
彼女は、ため息をついた後。
海の方へ目を逸らす。
いつの間にか、イルカの群れは
何処かに消えていた。
言い分は、勿論理解している。
でも、せめて。この船の上にいる間だけは。
何者であるかなんて、
考えなくてもいいのでは。
ただ、在るということだけ。
それだけでは、駄目なのだろうか。
船旅の行程は、約三日間。
物資を積んでいるのもあるが、
悪天候を回避しながら進む為
速度は緩やかだった。
そのせいか船酔いもなく、体調も
問題はなかったが。
景色は海だけを映し、変化がない。
彼女のように初旅で浮き立っていた
乗客たちは、夜を迎える頃には
船室にいるのか姿を見せなくなった。
ただ、シェライアは。
昼食を済ませた後も船室から出て、
ずっと続く海を眺めていた。
彼女にとって、同じように漂う波間でも。
僅かな変化を捉え、
十分に楽しむことができた。
唯一、空だけは
時間の経過を示すように。
朝焼け同様に、美しい夕日が彩り。
今では、零れそうな星空が広がっていた。
二人が通された船室は、通行証書の効果なのか
狭いながら綺麗に整えられていた。
区切られていたが、外に出る際
扉の音で分かるくらい隣接している。
彼女が船室を出ると、気づいてトウマも
付き添っていた。
日頃の護衛癖。
癖という言葉は、
適当ではないかもしれないが。
言ったところで、それは直るわけがなく。
次第に言葉を交わさなくなり、
ただ景色を眺めて過ごした。
しかし、皆が船室から出なくなった今。
流石に気疲れしたのだろう。
彼は、姿を見せなくなった。
彼女としては、安堵している。
ゆっくり休んでほしい。
大陸に着けば、嫌でも気が張る時間が続く。
マルライーナが告げた言葉の意味は。
単に、休んでおけと。
そういうことだったに違いない。
少しでも、肩の荷を下ろし
穏やかな時間を過ごして。
これからを
万全に迎えられるように、と。




