Cr3-2
『エル・ラド』から大陸へ渡るには、
気軽に受け渡せない程の料金と
国が発行する渡海証書が必須になる。
万が一、料金が用意できたとしても。
渡る目的と滞在期間の詳細が
認められなければ、発行も渡海も難しい。
そして、マグリヤから派遣された兵が立ち会う
持ち物全ての確認。
厳しく取り締まるのは、密輸を防ぐ為だ。
ようやく順番が訪れると、トウマは
荷袋から料金と渡海証書を取り出す。
二人いる検問兵の内の、片方に手渡した。
シェライアは、その様子を
彼の背後から静かに窺う。
検問兵たちが、二人の顔を
把握しているかといえば、怪しくなる。
彼が渡海するという情報は、
伝わっているとしても。
業務的に渡海証書を受け取った検問兵は、
その場で広げて目を通し。
大きく目を見開いた。
「後ろにいる従者も同行だ。」
慌てて頭を垂れようとしたのを
制するように、彼は言葉を投げる。
「······はい。どうぞ、お通りください。」
渡海証書には。
ダナント卿の紋章とマグリヤ国の刻印。
そして、何者であるか。
ただ、シェライアの身柄は記されていない。
大陸へ渡る目的も伏せられているが、
紋章と刻印を有する事項は。
一切、問うべからずと伝えられていた。
前に並んでいた者たちのような、
徹底した荷物検査もなく。
二人は、渡海証書の目通りだけで
船内へ続く橋に踏み出せた。
不思議な感覚だった。
大陸に渡るという難題を、
こんなにも容易く通過してしまうとは。
そして。
今から本当に、孤島を離れるという現実。
ずっと願っていた事が、叶う。
立ち止まり振り返ると、
山並みが目に映った。
この、生まれ育った地から。
離れる時が来るなんて。
「帰りたくなっても、簡単に戻れんからな。
よく見ておけ。」
見透かされたような言葉に、彼女は
小さく笑って応える。
「何も、寂しくないわ。」
船へ向き直り、踏み出す。
慣れ親しんだ場所を離れることに、
後悔はない。
これから広がる未知の彩りを。
映せることに、心が躍る。
出港を報せる汽笛が鳴った。
帆を張る勇姿を一目窺おうと、
波止場に立つ者たちがいる。
笑顔で、見送りの手を振った。
ゆっくりと、船体は。
悠然と波に乗り、大海へ進んでいく。
その後には、漣が生まれ。
道のように、細長く伸びていた。
海の天候は変わりやすいと
聞いているが、今のところ
穏やかな青空が広がっている。
流れる風も波の音も、心地良く。
照り返す揺らめきも、
彼女の心模様を表すように眩い。
時が止まっているかのように動かず、
海を眺めているシェライアに並び。
トウマは、何も発さず寄り添っている。
彼女のように、
美しい景色に目を奪われる者が多い中。
彼の視線は、船内へ向けられていた。
乗組員の動き。やり取り。
船内に何があるか。
それを、監視するように。
彼にとっても初めての事ばかりであるが、
彼女と違うところは。
いずれ、上に立つ身として。
将来の為に、貴重な経験として。
吸収しているところだった。
楽しいばかりではいられない。
成人を迎えた彼は、そう自覚していた。




