Cr2-29
「······まだまだ、だな。」
ぽそり、と彼から漏れる。
「えっ?」
「······もっと、強くならなければ。」
何で、そんなに。
問おうとした言葉を、彼の眼差しが呑み込む。
こんな間近な距離で。
そんな、真っ直ぐに。
なぜか、大きく波打つ鼓動と。
胸の奥が苦しくなるのを感じて、
彼女は目を逸らした。
「あなたは、もう。十分強いわ。」
あの時から、見違える程に。
彼は、ふ、と綻ぶ。
「助けられる様では、全然だ。」
「······」
犠牲者を出さずに。
こうして、平穏な時間を迎えている。
それで、いいのでは。
「······支え合っていけば、いいじゃない。」
護る、護られると。
役なんて決めずに。
お互いに、補っていけば。
「······ああ。」
「旅は、始まったばかりよ。」
こんな、心臓に悪い幕開けは。
想像していなかったけれど。
本当に。無事でよかった。
「シェライア。」
名前を呼ぶ彼の声音が、優しく響いた。
雰囲気。視線。
全部を、包み込むような。
先程から、何か落ち着かない。
「足の傷は今、どうなっている?」
「······えっ······?」
「見せてもらえないか。」
そんな要求をされるとは思わず。
加えて注がれるものに動揺しながらも、
声を振り絞る。
「······どうして、見たいの?」
「見ておきたい。」
ただ、一言。
それだけで、理由を告げない。
捉えて放さない彼の双眸から
逃れるように、彼女は
自らの足を映す。
ふくらはぎ一帯に走る、傷痕。
不幸中の幸いで、腱を痛めず
歩くのに支障が出るものではなかった。
残っているというだけで。
時々痛むのも、幻痛に近いもので。
「······」
妙な動悸に耐えながら。
シェライアは、衣を捲って
ブーツの紐を緩める。
脱いで露わになった右足を、
差し出すように。トウマへと向けた。
じっ、と。注がれる。
何の、時間なのか。
よく分からず、鼓動だけが煩くなり。
羞恥だけが募っていく。
「······も、もう、いいかしら。」
「······」
もう限界だ、と。
衣で隠そうとした時。
ふわっと、彼の手が傷痕に被さる。
当然のように、鼓動が跳ね上がり。
大きく目を見開いた。
問いたいが、声が出ない。
「すまない。」
告げられた謝罪と。
そこから伝わる、温かさに。
全身が火照っていく。
「も、もう······全然痛く、ないわ。
大丈夫、だから······」
「消える特効薬があれば、いいのだが。」
その言葉と表情には、陰りが差していた。
映して、ようやく理解すると。
大騒ぎしていた鼓動が、
何とか治まっていく。




