Cr2-28
将軍に続き、騎士たちも同様に
頭を垂れる。
それを前にして、彼女は紡ごうとした。
私の力じゃない。
森の主が、呼び掛けてくれたから。
私は、何もしていない。何もできなかった。
だが。
真っ直ぐ向けられた彼の視線を受け、噤む。
精霊の存在を口にしても。
理解できる者は、ここにいない。
そう、言われた気がした。
「······お礼は、いらないわ。頭を上げて。」
彼女の一声に、逆らう者はいない。
「これからも、皆の平和の為に。
よろしくお願いします。」
そう告げることが。
騎士たちにとって、一番の特効薬だろう。
「仰せのままに。」
目を輝かせて受け入れる光景を。
笑顔の仮面を付けて眺める。
そんな、複雑な彼女の心情を。
唯一彼は、理解している。
旅立った今日、港町へ向かい
そこで宿泊する予定だった。
しかし、“カフ・ドランドー”の件で
足止めを食らった上、既に日が落ち始めた為
騎士たちの野営に加わる事になった。
幾つも設置されたテントの内、
大きいものが一つある。
訓練時の集会場として設けられていたが、
急遽ここが二人の休憩所として整えられた。
ミストランに促されるまま、
テントへ入ったものの。
「今夜は、ここでお早めにお休みください。
渡航の時間を考えると、出立は
日の出前が宜しいと存じます。」
「それは、そうだが······」
「お食事は、ご心配ありませんぞ?
料理の腕も磨いておりますからな!」
「あの、将軍······」
「あぁ!湯あみできる場所も作りますので、
ご安心を!」
二人が言いたいのは、いずれも的外れだ。
「どうぞ、ごゆるりと!」
言う隙を与えられないまま、
豪快に笑って去っていく将軍を見送り。
妙な静けさが漂う。
·······
寝床が。
並んで、二つ。
この展開は、予想していなかった。
同じ空間で、寝るというのは。
「······後で、ミストランに言っておく。」
「······ええ、そうね。」
とりあえず。今は、いいだろう。
そう、勝手に納得させた。
“カフ・ドランドー”に薙ぎ倒された木を使って
作られた長椅子へ、並んで腰を下ろすと。
彼女は、ちらっと彼の頬に目を向ける。
「······手当てを、しなければ。」
「このくらい、大丈夫だ。
ミストラン達も気にしていない。」
公爵の子息が。
将軍たちの基準に、考えては。
ため息をつくと、彼女は荷袋から
手の平くらいの円状の容器を取り出して、
蓋を開ける。
「それは?」
「軟膏よ。非常用に作っておいたの。
······あ、きちんと薬草で作っているから
効き目は確かよ。塗ってあげる。」
「······」
ねっとりしたそれを、薬指で掬い。
そっと、彼に近づく。
これを、早くも使う事になるなんて。
頬の傷に、つ、と滑らせると。
沁みたのか、ピクッと片眉が動いた。
「痛い?」
「······いや。」
よく見ると、腕にも傷がある。
同じように塗りながら、言葉を漏らす。
「ランドーラへ行く前に、
治るかしら······」
あの時のように、重傷ではないけれど。
傷を負うのは、平静ではいられない。




