Cr2-27
「······ここに住む私たちは、決して。
あなたたちを、脅かそうとは
思っていないわ。それだけは、
分かってほしい。」
あの時だって。
ただ、一目見たいという
好奇心だけだった。
ただ、襲われた原因を
理解するには、幼すぎて。
精霊を見失う程、恐怖に呑まれてしまった。
「出来る限り、私たちが食い止めるから。
“あなたたち”が、
安心して過ごせるように。
人の過ちは、人が正すから。」
伝わるかどうかは、分からない。
でも。伝えるべきだと思った。
彼女を捉える、金色の双眸は。
真意を見定めている。
『······
モリノヌシニメンジテ、ヒキサガル。
コンドハ、ナイ。』
オォォォォォッ!
空に向かって咆哮した“それ”に、
トウマたちは驚いて身構えるが。
バサッ!と大きな双翼を広げ、
飛び立っていった。
その光景を、何も分からないまま
呆然と見送る。
ふぅ、と息をつき、シェライアは
一同に目を向けた。
所々に走る傷。
ここで足止めをしていたに違いない
彼らの、疲弊した色が窺える。
「みんな、よく耐えたわ。ありがとう。」
労いの言葉に、騎士たちは戸惑う。
そして、ミストランも。
皆の気持ちを代弁するように、
彼は綻んで言葉を投げた。
「礼を言うのは、こちらの方だ。」
致命傷を受けず。
皆、無事に立っている。
その事が、もう奇跡である。
『エ・ルミィス』という存在を、改めて
目の当たりにした彼らは。
改めて、尊いものだと認識する。
『さてと。僕は、
もう一寝入りしようかなぁ。』
ふわわわ、と大きな欠伸をして
森の主は、ゆっくり歩いていく。
「ありがとう。」
感謝を告げると、もふもふの手を
ひらひらと揺らした。
群がっていた多種多様の精霊たちも、
主に従って茂みへと消えていく。
その中、一緒に駆け抜けた白い兎は
ポツンと残り。
長い耳を、ぴょこぴょこさせて紡いだ。
『お元気で。』
その一言が、とても嬉しかった。
「あなたも、ね。ありがとう。」
笑顔で手を振ると、鼻をヒクヒクさせた後
茂みへと跳んでいった。
“カフ・ドランドー”が踏み荒らした跡は。
嵐が去った後のように、一面
荒野化していた。
ヒュオォォォ、と。
風だけが、何事もなかったように
吹き流れていく。
不測の事態が発生したものの、
無事に合流を果たした二人は。
ミストラン率いる騎士たちが
野営する場所へ出向くと、
“カフ・ドランドー”を暴走させた原因である
侵入者たちの情報交換を行った。
ヒルド、カデとともに発見した遺体は、
大陸の者であるという可能性。
巣穴の卵を狙って侵入した者が、
他にもいるということ。
今回の件について、
更なる調査の必要性。
大惨事に発展する前に。
侵入を食い止める為に。
今後とも、警戒しなければならない。
「トウマさま。私共は交代制で定期的に、
監視を続けようと思います。」
「ああ。それが今のところ、最善だろうな。」
強化訓練どころか。
実戦となってしまった事態は、
貴重な経験として騎士たちに残るだろう。
ミストランは、シェライアに目を向けると。
胸に手を当て、深々と頭を下げた。
「この度は、『エ・ルミィス』のお力を
拝見でき光栄に存じます。
今、私共の命が在るのは
貴女さまのお陰です。心より、
お礼を申し上げます。」




