Cr2-25
はぁ、はぁ、と肩で息をしながら。
同じように立ち止まった、
白い兎を見据える。
「······あなたが、助けてくれたの?」
あの時、逃げるのに必死で。
精霊がいた事に、気づかなかった。
彼女の問いに。ぴょこぴょこ、と
長い耳を動かす。
『見当違いね。森を、“あれ”に
荒らされたくなかったからよ。』
あぁ。それが、偶然だとしても。
感謝しなければならない。
結果的には。
私と彼の命を、救ったことになるから。
「······ありがとう。
ごめんなさい。あの時は。」
『懲りたと思ったのに。なぜ、また来たの?』
「······」
これは、人の業が起こした事。
払拭するのも。人だ。
「無理だと分かっていても。
できることは、精一杯するわ。」
無謀だということは分かっている。
でも、今。きっと。
彼も、踏ん張っているはず。
『······私たちも。これ以上、
荒らされたくないの。』
ざっ、と。
白い兎は、駆け出す。
その後に続き、再び彼女も走り出した。
『ちっぽけな兎には、もう
どうすることもできないわ。
仲間たちが、森の主へ呼び掛けているの。』
「森の、主······?」
『もうずっと、眠りにつかれている。
起こすの、手伝って。』
精霊側から、そんな頼み事をされたのは
初めてである。
「えっ、どこにいるの?」
『こっちよ。』
向かう先から、ほぼ直角に曲がって
飛び跳ねる。
目指す彼の場所とは、違う方向だった。
ここで、頼み事を振り切って
彼の元へ行くのか。
森の主を起こすのが最善なのか。
一瞬迷ったが、白い兎が飛んだ方向へ
足を運ぶ。
私に、できることを。
これが、収束することに繫がるならば。
陽動で剣技を繰り出すトウマに、
“カフ・ドランドー”は標的を定めているが。
懐へ入ろうとするミストランの動きを
完全に読んでおり、寸前で躱す。
騎士たちは、下手に手を出すと
邪魔になると思い、固唾を飲むしかなく。
剣を構えたまま、行方を見守っていた。
何度か、“それ”の爪が彼の頬や腕を掠め。
赤い筋が付いている。
急所を狙い続ける将軍も、致命的ではないが
頬に肩に傷が走っていた。
“カフ・ドランドー”の勢いは、留まらない。
トウマは肩で息をしながら、
圧倒的な存在を見据える。
将軍の体力も、自らの体力も。
いずれは限界を迎える。
大事な役目の前に。
ここで命を落とすわけには、いかない。
どうしたらいい?
「トウマさま。このままでは、
埒が明きませぬ。ここは、私たちに任せて
港町へ向かってください。」
何かを覚悟した師の言葉に。
彼は、強く首を横に振った。
「それは、できん。貴殿や、皆の命を
置いて逃げるなど、絶対に。」
あってはならない。
「トウマさま!」
「私共は大丈夫です!」
「どうか、お任せをっ!」
将軍が告げたのを機に、騎士たちが
声を上げて、彼の前へ出る。
「待てっ!出るなっ!」
「私共の意を、どうか。
お汲み取り願います。」
大剣を構え直し、ミストランも
騎士たちに続く。
止める間もなく、一斉攻撃が始まった。
彼は、歯を食いしばる。
このままでは。




