Cr2-24
この場所で遭遇したというのは、
由々しき問題だ。
しかも、興奮状態にある。
爪を振りかざし、こちらに目掛けて
振り落とす。
彼は紙一重で避け、次の攻撃に備える。
大きな尻尾が、鞭のように周辺を打った。
ドシン!と、重い音が響き、
地面を揺らす。
「はっ!!」
掛け声とともに、ミストランが飛び出した。
“カフ・ドランドー”の急所は。
鱗に覆われていない腹と、喉元。
懐に入り大剣を突こうとするが、
“それ”の大きな口が阻む。
ガチン!と、歯がぶつかる音に
騎士たちは冷や汗をかいたが、
かろうじて大剣で弾き、後方へ飛び退いた。
オォォォォォッ!!と、咆哮する姿に。
あの時味わった戦慄と
背中の古傷が呼応して、身震いを起こす。
「······ミストラン。“奴ら”の領域に
踏み込んだ、命知らずがいたようだ。」
「そのようですなっ······」
今覚えるこれは。
蘇る恐怖なのか、湧き上がる歓喜なのか。
少なくとも。
「ここで止めなければ、郊外に被害が及ぶ。」
暴れ狂う“それ”を真っ向に見据え、
剣を構える。
「俺が囮になる。貴殿の太刀ならば、
“奴”の暴走を止められるだろう。」
「それはっ!危険すぎまする!」
「身軽な方が、適役だ。」
迷っている暇はない。
「トウマさまっ!!」
そう。
俺の軽い太刀では、止められない。
あの日から消えない悪夢も。
拭えるまでには、至っていない。
だからせめて。悪あがきを。
オォォォォォ······!
再び、唸る声が響く。
さっきよりも、近い位置まで
迫っているのを感じた。
息を切らし、流れる汗にも構わず
シェライアは藪を抜けていく。
そういえば、走ることも。
あの時以来、していなかったような。
いつの間にか。人目を気にするようになり。
『エ・ルミィス』という名に縛られ、
相応することを余儀なくされ。
身体も、思考も止まってしまって。
だけど、今。気づいた。
私、まだ、走れるみたい。
妙な安堵感と、爽快感が。
彼女を奮い立たせる。
ふと、足元に。気配を感じた。
『あなた、あの時の子でしょう?』
声が掛けられて、目を向けると。
一緒になって走る、白い毛玉がいた。
いや、正確には。
白い毛に覆われた兎である。
『困るわ。“あれ”が森を荒らすなんて。
しばらくなかったのに。』
並走するこの白い兎は、精霊だと気づき。
息を乱しながらも応える。
「教えて。どうして“あれ”は
ここへ、踏み込んでいるの?」
『最近、“あれ”の巣穴へ行こうとする人間が
増えているのよ。本当、迷惑だわ。』
「巣穴へ?なぜ、そんな命知らずな事を。」
『知らないわ。本当、人間って
おかしな生き物よね。』
それは、耳が痛い。
「何とか、止められないかしら。」
『無理よ。もう、私たちの声が届かない。
あなたたちの時は、何とか
引き下がってくれたけど。』
紡がれた言葉に、彼女は思わず
立ち止まる。




