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Cr2-19


その日の朝。


騎士たちを引き連れて歩く、トウマの姿を

一目見ようと。行く手を阻むことなく

道を作るように、城下町の民衆たちが

押し寄せていた。




「ご無事でのご帰還を、

 心よりお祈りしております!」


「トウマさま!良い旅を!」




上がる歓声に彼は応えながら、

凛々しく歩いていく。



旅路に支障ないよう、

軽めの鎧を身に着けているが。

気品と存在感は、著しく。


颯爽とマントを靡かせて通っていく様は、

皆の心を掴んでいた。



ただ。


いつも傍らに在った、小さき花が。

見当たらないことに、

違和感を覚える者もいた。


これ程の、彼の晴れ姿を

見送らないことにも。





民衆たちが、練り歩く彼たちに注目する中。




シェライアは、町外れの大きな切り株に

腰を下ろしていた。


布で全身を包み、出ているのは

金髪の前髪と涼しげな青緑色の目だけである。

普段出歩く際の緩さはなく。

一目見て彼女だと気づく者は、

身内と彼くらいだろう。



足元には、背負える荷袋が置かれている。




『あらあら騒がしいわね。』


『何の行列?』


『あの子が旅に出るそうよ。』


『まぁまぁ。』




木々に留まる雀たちの会話を

聞き入れながら、彼女は荷袋から

とある物を取り出す。



何も書かれていない、手帳。


自ら生み出したインクを補充できる、ペン。


そして。


彼から貰った花の一片を

押し花にして作った、栞。



全部が、彼女の小さな手に

丁度いい大きさだ。




旅立ちの日から。

一日の出来事を、記していこうと。


思い立ったのは、一週間前くらいだった。



目にして、思い出せるように。


これから、貴重な時を過ごしていくのだから。


旅が終わってからも、読み返して

浸れるように。



そう考えると、自然と口元が緩んだ。




手帳を開き、ペンを軽く走らせる。




旅立ちの日は、雲が多いけれど晴れ。



トウマが華々しく旅立つ中。

私は、籠から逃げ出すように後を追う。



陽が当たらない事が。

こんなにも、楽しいなんて。変かしら。




『あなたは、どうするの?』


『あの子、行っちゃうわよ?』




チュン?


チュン?



いつも一緒にいたから、雀たちが

疑問に思っている。




「勿論、私も行くわよ。しばらく、

 帰ってこないけど······」




『まぁ。』


『それは、寂しいわね。』


『帰ってきたら、必ず顔を見せてね。』


『あの子も、一緒に。』




彼女は栞を挟み、手帳を閉じる。




「ええ。それまで、皆お元気で。」




笑顔で言い放つと、立ち上がった。




目に映る先は、未知の領域。


今は不安よりも、浮き立つ。




『気をつけて行くのよ。』


『お見送りしてあげる。』




チュンチュンと、背中を押すように届く。



これが自分に、ふさわしい門出だと。


誇らしげに、歩いていく。





どこからか、強い風が差し込んだ。




私が馴染んでいた、あの白馬ではないけれど。


心に留めるには、十分すぎる。




どこかで、そのいななきを

響かせているとしたら。



必ず、この土地へ連れて帰ろうと。


馳せずにはいられない。









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