Cr2-17
手合わせが終わると、観戦していた騎士たちが
再び訓練に戻って励む。
その光景を眺めながら、彼は紡いだ。
「港町へ行く際、調査を兼ねて
“カフ・ドランドー”の巣穴付近を通る。」
迷うことなく意思を示す姿を、将軍は
我が子を見るような眼差しで捉える。
本当に、お強くなられた。
それ程までに。護るべき方への想いは。
「それならば、付近まで
私共も参りましょう。」
「いや、“奴ら”は警戒心が強い。
多勢で行けば、逆撫でする可能性がある。」
「······うーむ。確かに、そうですが······
危険が及ふのでは。」
「深入りは、せん。慎重に様子を窺う。」
強い想いを秘めて、この方は。
これからも突き進むのであろうな。
「郊外付近で、しばらく待機する所存です。
何かございましたら、
お申し付けください。」
そう告げた将軍に目を向けて、彼は微笑む。
「ありがとう。頼りにしている。」
貴方さまが治めるマグリヤを、是非。
この目に焼き付けたい。
*
二人がランドーラへ出向く本来の目的は、
公にはなっていない。
名目は、
“友好関係を築く為の訪問”となっており、
その大使としてトウマ・レゥ・ダナントが
『エ・ルミィス』より賜った品を
渡すという事になっている。
シェライアが従者に扮装して
付いていくというのは、極秘事項である。
城下町郊外付近まで、マグリヤの騎士たちが
護衛とともに見送る形になっている。
それから先へ進むのは、
二人だけという事になっていた。
旅立ちの日を迎えた、早朝。
まだ煌めく星たちが、
大半を締める空に。
水平線が赤く染まっていくのを、シェライアは
いつものように部屋の窓から眺めていた。
誕生日から、約二ヶ月が過ぎている。
“授与の儀”での出来事は、
昨日のことのように思い出せるが。
呪縛に呑まれて
全てを諦めていた時の自分は、
懐かしいとさえ思える程に、遠い。
今、こんなに清々しく。
染まっていく朱の空が美しいと。
真っ直ぐに映せる事に、驚きさえ覚える。
そして。
あの男の行方も、思惑も。
あれから不気味な程に音沙汰なく、
不確かではあるが。
旅立つきっかけを与えてくれたと、
前向きに捉えている。
歪んだ術式を、これ以上発生させない為にも。
あの男の素性を、明らかにしなくては。
コンコンコン、と。ノック音が響いた。
メイドたちが来るには、まだ早すぎる。
トウマ、だろうか。
「シェライア。」
「起きているかしら。」
馴染み深い声を、間違えるわけがない。
彼女は、返事もなく扉を開ける。
「おはよう。お父さま。お母さま。」
娘を見つめる二人は、穏やかな表情ではあるが
少し寂しそうにも映る。
「旅立つ前に、少し話がしたい。」
「いいかしら?」
「勿論よ。入って。」




