Cr2-10
彼女は口を濯ぐと、
沈むメイドたちを見渡して言い放つ。
「解放されていいじゃないの。
これを機に、辞めてもいいんだから。」
それに対して、三人は目を見開くと。
縋り付くように、詰め寄る。
「心ないことをっ!」
「辞めたいなんて、
少しも思っていませんっ!」
「私たち、シェライアさまに仕えることが
誇りだと申したはずですっ!」
そうだわ。これを機に、
メイドたちの目を覚まさないと。
「きっと、私に仕えるよりも
ずっと良い仕事が見つかるわ。」
「シェライアさまぁっ!」
「お願いいたしますっ!」
「どうか、解雇だけはっ!」
三人は、涙目になりながら訴える。
「お帰りを、お待ちしておりますからっ!」
「常に、お部屋を綺麗にしておきます!」
「私たちをどうか、見捨てないでください!」
あぁ、もう。何て言えば、
分かってくれるのかしら。
「大きな休暇だと思って、
実家へ帰りなさい。家族が喜ぶわ。」
そこで、ピタっと止まる。
これは、効果があったかも。
そう思って様子を窺っていると。
今まで目にしたことがない程に、
表情が暗くなった。
「······今まで、申し上げませんでしたが······」
「私たち、孤児なのです。」
「帰る実家は、ありません。」
この陰りは。
冗談で生まれるものではない。
そう悟った途端、失言してしまったことに。
大きな罪悪感を覚える。
「······ごめんなさい。私······」
謝罪の言葉を告げた彼女に、すかさず
三人は頭を振る。
「何も謝ることは、ありませんっ!」
「私たちは感謝しております!」
「マグリヤ国に在ることを、
心より幸せだと感じておりますっ!」
必死に告げる、その様が。
益々追い打ちをかけた。
「······知らないままでいた私は······愚かね。」
「愚かだなんて!」
「申し上げなかった私たちが悪いのです!」
「どうか、お気になさらずに!」
慣れは、怖い。
在ることに、疑問を持たず。
知らずに過ごしていたなんて。
「コーリン、ソラル、ユア。
あなたたちのことを知りたいわ。
良ければ、教えてもらえないかしら。」
戸惑う三人を。
彼女は、真摯に見据える。
話したくなければ、無理には。
そう告げようとしたら、コーリンが
意を決したように口を開く。
「シェライアさま。私たちは、
大陸出身で······戦争孤児です。」
それを皮切りに、ユアが続く。
「大陸では、私たちのような者は
珍しくありません。日々、どう繋げるか······
生きることに必死でした。」
重苦しく吐き出す二人の言葉を、ソラルは
包み込むように優しく紡いだ。
「この、マグリヤならば。
『エ・ルミィス』を匿い象徴とする、
ダナント公爵さまならば。私たちを
受け入れてくれるはず、と。
根拠ない一縷の望みを持って、
『エル・ラド』へ渡りました。
······勿論、身柄の保証はないので······
亡命という形でしたが。」




