Cr2-9
トウマは、シェライアへ歩み寄る。
考える間もなく、すっ、と手を伸ばされ。
持っていた箱を奪い、乱暴に開ける。
上品に、綺麗に並べられた焼き菓子全てを
鷲掴みにすると。
自らの口の中へ頬張り、咀嚼した。
急な行動に彼女は、ぽかんと
見届けるしかなく。
ごくん、と飲み込んだ彼は、空になった箱を
押し付けるように返した。
「これで、文句はないだろうが。」
吐き捨てるように言い、颯爽と去っていく。
その背中を眺めて。
首を傾げることしか、できなかった。
空箱に視線を落とすと。
よく分からないまま、息をつく。
何を考えているのか。
最近、把握できない事が増えた。
······
全部を、一掴みできるなんて。
手が、大きすぎやしないか。
身長だって。体格も。肝の据わり方も。
何もかも、育ちすぎている。
いつからなのだろう。
違いを、意識するようになったのは。
自覚する度に、ざわつく。
煩わしい、とさえも。
ずっと、変わらずにいられるなんて。
夢物語だけの常識だって分かるくらいに、
成長したけれど。
私と、彼だけは。
変わらずにいられる、唯一の存在だと
信念を抱きたくなるのは。
単に、同じ日同じ時間に生まれたという
境遇だけではない。
彼、だから。トウマだから。
それが答えだと、言う他にはないのに。
不意に。
右足のふくらはぎが、疼いた。
古傷で。忘れていたのに。
そう感じた瞬間、過る。
そうだわ。
未だに残る、この。大きな傷跡。
これが、自らに刻まれた時から。
彼は、変わった。
思い出した。
呪縛も。
この時から、深く。
シェライアは、床に落ちた帯を拾う。
この帯のように、濃くて。
容易に断つことができない、鎖。
生まれた時から在り、少しずつ重くなって。
今では、身動きとれないくらい
雁字搦めになっている。
トウマ。
あなたの、願望は。
私の意と、真逆に在るのでは。
*
書簡の返答が来たのは、一週間後という
異例の早さだった。
“心よりお受けいたします。
即座に使者を向かわせますので、
お越しの際には是非御遣いください。
今後とも、友好である事を誓います。”
内容は簡潔で、不審な点は見受けられない。
ただ、真意を見極めるには至らなかった。
出向き、その対応を。
直に触れなければ、判断できない。
旅立ちの準備は、速やかに進められた。
はぁ、とため息が漏れる。
それは、シェライアの真っ直ぐな金髪を
梳かしているソラルからだった。
どうしたの?と聞きたいが、コーランに
歯を磨かれていて喋れない。
「私たち、一緒に付いていくことは
できないのでしょうか······」
ティグロン茶の準備をしながら
ユアが、言葉を漏らした。
「とても心配だわ······」
「お食事、気になるわよね······」
「······治安も、きっと悪いわ。」
「トウマさまが、
いらっしゃるとはいえ······」
それぞれ言葉を零して。
三人同時に、重いため息をつく。




